タイマン戦 理科VS家庭科

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タイマン戦 理科VS家庭科

『――勝者は藤原銀杏。1点が追加されます』 小型のドローンから音声が流れた。聞こえているのは立っている銀杏だけ。倒れている武蔵には聞こえなかった。 「……ちょっと危なかったかも。初めての同条件だったから勝てたね」 もし初見の戦いじゃなかったら。 もし武蔵が極技を使わなかったら。 負ける可能性は十分あった。勝てたのはたまたまでもある。10回戦って10回勝てる保証はない。 「また戦えることを祈っておくよ」 銀杏は気絶している武蔵に賛辞を送り、その場を立ち去ったのだった。 「いきなり白熱した戦いでしたね」 岸田文雄が言葉を紡ぐ。 「てことは社会より国語の方が頭がいいってこと?」 「そうとは限らん。今回は手札が完全に分からない状態での戦いだった。両者ともに手札を知ってる状態なら勝敗は不明となるだろう」 天皇親子の言葉に岸田文雄は感嘆の声を漏らした。 「とにかく勝者は決まった。これ以上は長引かせる必要もない。――次は理科と家庭科だ。所定の位置まで行ってくれ」 「――あ、どもども」 銀杏がみんなのいる地下まで来た。戦っている時よりもなんだかナヨナヨしている。 「お疲れ様。次の戦いは先になるから休んでおくように」 「はーい……そういえば牧野君をその場に放置してきたけど、大丈夫ですか?」 「牧野君は既に回収して療養しています。すぐに戻ってくるでしょう。それよりも藤原君はいいのですか?」 「あー体の方は大丈夫です。技で回復したんで」 「そうですか……」 ――周りの目。これから戦うであろう6人が銀杏の方を見ている。敵意、戦意。とにかくピリピリとした空気感だ。 慣れてないのか、やっぱりナヨナヨしている。戦っている時とは大違いだ。なにか話して空気感を変えたいが、残念ながらそんなコミュ力は持ち合わせてない。国語が得意なくせに。 もうすぐ戦いが始まる。そうなってくれれば意識は全員がそちらに向くはずだ。それまでは耐える。銀杏はモジモジしながらそっぽを向いていた。 2人が立っているのは東京高速道路。周りにはビルや建物が立ち並び、威圧的な雰囲気を纏っている。 片方は理科の天才。その名も『勝浦辰馬(かつうらたつま)』。身長は160cmを少し超える程度の小柄な体格。さらに全身が松の枝のように細い。陸上の長距離をしているそうだ。 「ザ・サイエンティスト」「物理法則の擬人化」とまで呼ばれる辰馬。彼はその頭脳から、あらゆる法則を駆使して未来を見通すことができると言われている。 「ふぅぅ……前の2人で戦い方は分かった」 その場でジャンプ。もう準備体操も終えたようだ。細い腕に浮かんだ血管はやる気を物語っているように見える。 「よし!勝つぞ!!」 もう片方は家庭科の天才。その名も『佐川武尊(さがわたける)』。身長は165cm程度と体格面では辰馬と互角。細身の体という部分まで同じだ。 「全世界の母」「母の名を冠した男」とまで呼ばれる武尊。もう既に五つ星ホテルの料理人から推薦を受けていると言われている。 「アレノさんのためにも勝たなくちゃァな!!」 やる気は十分。あとは開始の合図を待つだけの状態だ。 ファンファーレの音。その合図は彼らの戦闘スイッチに指をかけた。
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