chapter:2 東京ラバーズ

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chapter:2 東京ラバーズ

   三年のインドネシア駐在を経て、義隆が帰国した。その事実をSNSで知り、英恵の心は揺れた。 三年前、義隆とは恋人同士だった。 出会いは、友人に誘われて参加した異業種交流会(という名の合コン)。商社に勤めている義隆は二歳年下だったが、落ち着いた態度や女性に媚びない言動にとても魅力を感じた。もちろん年収もよく、これから出世する可能性を考えると、結婚相手には申し分ない男だった。 当然たくさんの女の子たちが義隆を狙っていたし、それは英恵も同じだった。だから、義隆から連絡先を聞かれた時、天にも昇る気持ちになったのを今でも覚えている。  出会って、連絡先を交換してからは、会社帰りに数回デートを重ね、旅行にも行った。 お互い好き合っていると確信したのに、なかなか告白してくれないことに英恵はしびれを切らしていた。しかし、自分から告白するなんて怖くてできない。下手に告白してこの関係が終わるくらいなら、ずっとこのままのほうがいい。そう思っていた。 義隆から告白されたのは、出会ってから数か月後のクリスマスイブ。 話題のホテルのレストランで食事をした時だった。店の中は互いを見つめ合う恋人同士で溢れ、英恵はどことなく居心地の悪さを感じていた。 (こう見えて、私たちは恋人同士じゃないんだよね) 窓の外に視線を移すと、オレンジの光を放つ東京タワーが見えた。こんな素敵なホテルに連れて来て、それでも友達だなんて言われたら、いたたまれない。 義隆は、いつもと変わらない態度でいる。仕事の話や、共通の趣味の話をしながら最後のデザートを口に運ぶ。 もし今日、このまま義隆から何も言われなければ自分から告白しよう。英恵は心を決めた。来年三十歳になる。結婚だってしたい。中途半端な関係でだらだら過ごせるほどもう若くはないのだ。 「あのさ、英恵」 名前を呼ばれた英恵は、義隆の方に視線を戻した。彼の手には白いリボンがかかった小さな箱がある。 「これ、クリスマスのプレゼント」 はいと差し出され、英恵はそっと手を伸ばす。 「ありがとう。私も義隆にプレゼント」 英恵は義隆からのプレゼントをテーブルの上に置き、バックの中にしまっておいた細長い箱を取り出した。中身はネクタイだ。英恵は義隆にプレゼントを差し出す。すると彼は箱ごと英恵の手を握った。 この大きな手に触れられたのは初めてかもしれない。それくらい今までの義隆は紳士的な振る舞いをしてきた。英恵がいくら隙をみせても、義隆は手を出さなかった。煮え切らない関係が耐えられず、いっそのこと、体から始まる関係でもいいかもしれない。そう思うこともあった。しかし義隆は英恵が作りだした“チャンス”を何度もスル―した。 だから今、彼が自分の手を握っていることが、英恵には信じられなかった。 「英恵」 「はい」 「好きだよ、英恵。ずっと言い出せなくてごめん」 「ううん、私も好き。こっちこそ、言わなくてゴメン」 いいながら英恵は安堵にも似たため息を吐く。それは義隆も同じだったようだ。少し強張った顔を緩ませて、「俺と付き合って欲しい」と言った。 英恵はゆっくりと頷いて返事をする。 「よろしくお願いします」  食事が終わると二人は、義隆が予約した部屋へと向かった。英恵の胸には義隆が送った小さなダイヤのネックレスが光っている。これは英恵が最初のデートの時にしていたものと同じだ。後日なくしてしまって落ち込んでいたのを義隆は覚えてくれていたのだ。 それだけでも嬉しいのに、今日このホテルに泊まれることはもっと嬉しいことだった。 都内でも人気のあるこのホテルは、チャペルも併設され、結婚式場としても人気だ。フランスから呼び寄せた有名シェフのディナーが楽しめるのも話題となっている。各階のエレバーターホールにはクリスマスツリーが飾られ、クリスマスムードを盛り上げていた。  やがて、到着したエレベーターの扉が開き乗り込んだ。  上昇を始めるエレベーターの中で、英恵は義隆に聞く。 「予約するの、大変だったでしょう?」  クリスマスの時期はどこのホテルも予約でいっぱいだ。ひと月ほど前に、よく利用する予約サイトでホテルのクリスマスのカップルプランを検索してみたが、すでに埋まっていた。 「そうでもないよ。二か月前はわりと空いていたし」 「……二か月前」  義隆は、そんな前からこの日のことを考えていたのだ。思わず顔がにやける。そんな英恵を見て、義隆は言った。 「俺、見た目がはでだから遊んでいるようにみられるみたいでさ、英恵にまでそんなふうに思ってもらいたくなくてずっと我慢してたんだ」 「我慢?」 「そう我慢。俺は英恵のことが好きで、大事にしたくて、だから英恵がしっかり俺の方を向てくれるまでは手を出したくなかったし、告白するなら思い出になるような所でって考えてた」  義隆からそんな言葉が出てくるのは意外で、英恵は隣に立つ義隆を見上げた。すると彼はは英恵の腰に手を回して自分に引き寄せる。 「でも、もう我慢はしない」  言いながら義隆は、英恵の首筋に唇を押し当てる。低い義隆の声が鼓膜を震わせて、吐息が肌をくすぐる。英恵は反射的に身を捩った。 「くすぐったいからやめてよ」 「やだ」  義隆は逃げようとする英恵を壁に押し付けると少し強引に唇を合わせる。 「だめ、誰かに見られちゃう」  監視カメラだってついているし、もしどこかの階で誰かが乗り込んで来たら大変だ。 「俺は構わないよ」  酔っているのだろうか。それともこれが義隆の本性なのか。英恵は困惑しながらも義弘のキスを受ける。 ずっとしたと思っていた。少し多めに飲んだアルコールは理性のタガを簡単に外した。酔いに任せてなんてなんて言葉は好きではなかったけれど、止められなかった。  目的の階でエレベーターはその扉を開いた。ダウンライトに照らされた廊下を足早に進む。部屋の中に入ると、広々とした室内にはイタリアメイドの家具が品よく配置されたラグジュアリーな空間。天井からぶら下がる小ぶりのシャンデリアは、クイーンサイズのベッドにその光を落としていた。 「素敵な部屋」 英恵は窓辺にかけて行き、カーテンを開けた。煌めく夜景が広がっている。義隆は照明を消すと、英恵のすぐ後ろに立った。 「綺麗だよ」 「うん、そうだね」  英恵が同意すると、義隆は小さく笑った。 「俺は、英恵のことを言ったんだけどね」  英恵の戸惑った顔に、義隆の影が落ちる。 エレベーターの中でしたよりももっと濃厚なキスを交わして、二人はそのままベッドに倒れ込んだ。 「俺、インドネシアへ行くことになった」  義隆がそう言ったのは、翌年の三月。その日はホワイトデーで、ホテルのランチブッフェに二人で訪れていた。 「行くってどのくらい? 二週間? それともひと月?」  時々義隆は海外出張へ行っていた。だから英恵は今回もそれと同じだろうと思っていた。しかし、彼は遠慮がちに首を横に振る。 「三年」 「三年って、駐在ってこと?」 「そういうことになる」    義隆は申し訳なさそうな顔をする。 「行くの?」 「行くよ。だって、断れない。それにこれは出世のための大事なステップだから」 「私は、どうすればいいの?」  英恵は聞いた。欲しい答えがあった。もうすぐ英恵は誕生日を迎える。 「……遠距離になるけど、待ってて欲しい」  義隆は言った。カランとグラスの中の氷が崩れた。 「待つって、私もう三十だよ。三年後は三十三。義隆はいいかもしれないけど、私は無理」 「無理って、そう言われても、こればっかりはどうしようもないだろう」  義隆はため息を吐いた。乙女心の分からない義隆に、英恵はいらついた。 どうして結婚の二文字を口にしてくれないのだろう。付き合ってからの二人は急速にその距離を縮めていた。おたがいなくてはならない存在になっていた。少なくとも英恵はそう思っていた。だから、遠距離――しかも海外と日本で離れ離れになるくらいなら結婚しようとか、一緒に来て欲しいとか思うのがふつうじゃないだろうか。 それなのに、義隆は自分を置いて行ってしまう。三年も。 「私のこと好きじゃないの?」 「そうはいってない。仕事なんだから仕方がないだろう。この話を断ったら、他の奴らに追い越される」 「それは分かってる」 「分かってるなら、どうしてそう俺を責めるんだ」 「責めてない!」 「……じゃあ、いったいどうすればいいんだよ」 「それは義隆が考えて!」   義隆が出した答えは、“恋人関係を解消すること”だった。待てないと言った英恵を自分に縛り付けて置くわけにはいかないと。そういって、義隆はインドネシアへと旅立っていった。 件名:なし いつ日本に帰ってきたの? ひさしぶりに一緒にご飯でも食べませんか。 金曜日の二十時。 ××ホテルのレストランで待ってます。 英恵 この三年、英恵は義隆のことが忘れられなかった。さびしさに耐えきれなくて、合コンにも参加したし、取引先の人と付き合っては見たけれど、四か月で別れた。それからはずっとひとりでいる。 英恵は義隆が帰国したと知って、会いたい気持ちが抑えられなくなった。嫌いで別れた訳じゃない。今も好き。もしかしたら、義隆も同じ気持ちでいてくれているかもしれない。 そう思った英恵は、メールを送った。予約したのは、義隆に告白された、ホテルのレストランだ。 その日、東京は記録的な大雨だった。 電車はそのダイヤを乱し、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。傘は役に立たず、せっかく新調したワンピースも、パンプスも、雨に濡れてぐしゃぐしゃになってしまった。 レストランの客入りはまばらで、時々鳴り響く雷の音がやけに大きく聞こえた。窓の外にはあの時と同じように、オレンジ色の東京タワーが見える。 約束の二十時になった。だが、義隆は姿を現さなかった。この雨だし仕方がないと英恵は自分を慰める。 それからすぐに席を立った。すると女性のホテルスタッフが英恵所にやってきてこう言った。 「ご案内致します」  英恵はスタッフについて店を出た。どこへ向かうのだろうと疑問に思ったが、この大雨で停電も起きているようだし、もしかしたらエレベーターの故障か何かでエントランスまでのルートが変更になったのかも知れない。そう考えれば自然で、わざわざ確かめることまではしなかった。 「こちらです」  女性スタッフが足を止めたのは、大きな木製の扉の前だった。 英恵はその前に立たされた。ここがホテル内に併設されているチャペルだと気付いたのは、そのドアが開いてから。 「どうぞ」とうながされ、英恵は戸惑いながらもそのなかに足を踏み入れた。 高さのある天井には美しいステンドグラスがはめ込まれ、両脇にはパイプオルガンが設置されている。 そして、バージンロードのその先には、久しぶりに会う大切な人が立っていた。 「……義隆」 英恵は震える声でその名前を呼んだ。自分のわがままで別れてしまった恋人。それでも大好きだった人。 義隆はほほ笑んでその両手を広げた。英恵は目を潤ませて義隆へ駆け寄った。 「ただいま、英恵」 「おかえり、義隆」 「別れて三年。すっと好きだった。こんな気持ちになれるのは、英恵しかいない」 「私も、義隆のことが好きだった」 「ありがとう英恵。早速だけど、目を閉じてくれる?」  英恵は言われるがまま目を閉じた。義隆は英恵の頭に用意しておいたベールをかぶせる。 「英恵、俺と結婚して欲しい」  英恵は目を開けて、目の前にいる義隆をみた。涙で滲んでよく見えなかったけれど、愛おしい人の顔は、あの頃と変わらずに優しく英恵をみつめていた。 「はい、よろこんで」  英恵は言った。 すると義隆は英恵の左手を手に取り、ダイヤが組み込まれた指輪をはめる。 それから彼女に掛けたベールを持ち上げると、永遠の愛を誓う口づけを落とした。 終 [newpage] [chapter: 結婚対象外な私と年下の男。] 『お前は強い。だから、俺がいなくても生きていけるよな』 そういって彼は私をフリ、寿退社を夢見る派遣秘書の小娘を選んだ。 確かに私は男なんていなくても生きていける。 失恋の感傷に浸る暇がないほど仕事は忙しいし、去年の年収は1900万円を優に超えた。 これも小さいころから積み上げた努力の結晶で他人に誇れることなんだろうけど。 医者という職業が私の恋愛の足枷(あしかせ)になるなんて思っても見なかった。 せっかく親からもらった綺麗な顔もただのお飾りで、遊んでくれる男はいても高収入高学歴な女は結局のところ選ばれない。 付き合うことが出来るのは同業者ばかりで、その彼にもあろうことか、女医であることで強い女呼ばわりされてフラれる口実にされる始末だ。 「なんなの。本当に」 男に執着するつもりはない。 でも、私だって女だ。 普通の恋愛をして結婚を夢見て何が悪いのだろうか。 どうにもイライラが治まらず、ハイヒールが折れそうなほどガツガツと大股で歩いた。 ああ、これじゃあ余計に男が寄ってこないじゃないか。 医局のロッカーに白衣とステートをぶち込んでその扉を思い切り閉めると、ソファーで寝ていた同僚が迷惑そうに顔を覗かせた。 「ごめんね、起こして」 「いや、別に。おつかれ」 「おつかれさま」 久しぶりに仕事が早く終わって家に帰るなんて4日ぶりだ。 私は夕食の買い物をするために、近所のスーパーに立ち寄った。 とりあえず、買い物カゴを手に取って店内に入った。 青果売り場を素通りし、惣菜売り場で足を止めた。 料理はあまり得意ではなくて、包丁よりメスの方が断然上手に使える。 外食をすれば一番手っ取り早くて済むのだけど、家でくつろぎたかったんだもの。 夕食時を少し過ぎたこの時間の陳列棚には、売れ残りの値下げのシールが張られたものしか見当たらない。 仕方なく揚げ物と、サラダをカゴに入れた。 「あとは、デザートとビールでも買おうかな」 ぶつぶつと言いながら店内をうろついていると、誰かに背後から名前を呼ばれた。 「松谷先生」 なにげなく振り返ると、同じ病棟に勤務している看護師の藤田君がニッコリとほほ笑んでいる。 彼は今年4年いたオペ室から異動してきたばかりで、なれない外科での仕事を一生懸命に頑張っていた。 真面目で穏やかで、顔は今人気のタレントによく似ている。 名前はよくわからないけれど、チョコレートのコマーシャルに出ている甘いマスクの子だったな。 「おつかれさまです、先生も夕飯の買い物ですか?」 「お疲れさま、うん、そう」 ふと見ると、彼の買い物かごには野菜とお魚と旬の果物なんかがごっそりと入っている。 これから帰って料理するんだろうか?こう言っちゃなんだけど、年季の入った主婦みたいだ。 「先生は、今日のメニューはなんですか?」 そう聞きながら私の買い物かごを覗き込む彼。 「――え」 中に入っているのは、値下げした惣菜。彼のカゴの中身の同じようだったらまだよかったのに。 どうにもカッコウが悪くて、私は持っていたカゴをとっさに後ろに隠した。 「私は。あの、どうせほら、たくさん食材を買ってもなかなか家に帰れなくて腐らせちゃうし、それにね、こんな時間でこれしか残ってなくて、だから」 思わず口から出た言い訳を、彼は最後まで聞くことはなくこう言った。 「――あの、よかったら食べて行きませんか?僕んちで。そんな夕食じゃ体に悪いし、医食同源っていうでしょ?ねえ、先生」 私のマンションを通り過ぎて、5分も歩かない距離に彼のアパートはあって、あの状況で断るタイミングを逃してしまった私は誘われるままにここまで付いてきてしまった。 「どうぞ、散らかってますけど」 そういわれて部屋に上がると、私の部屋よりもきれいに整理整頓されていた。 「全然散らかってないじゃない、私の部屋よりうんときれ……」 そこまでいって口を噤んだ。 これ以上、彼に素の自分を晒してどうするんだ。 そんな私に彼は、買い物袋から食材を冷蔵庫に入れながら言う。 「だって、仕方がないじゃないですか。先生は忙しいし、僕らより人数少ない中で業務まわしてるから、いつだって残務があるし。当直だって多いし。これで家事も完璧にこなそうだなんて無理な話なんですよね」 「う、うん。そうなの。でも、それを言い訳にしたらダメなのよ。女なんだし」 だって、それが出来ないと結婚できないっていうか、彼氏すらできないっていうか。 それに輪をかけて医者だってだけで望み薄なのだから、もう、八方ふさがりなわけだ。 大きくため息をついた私の頬に冷たい缶ビールが押し当てられた。 「これ、飲んでまっていてください。すぐ作りますね」 一応、手伝おうかとは声をかけたが「先生はお客様なので」そういわれたので、でしゃばるのはやめにして、渡されたビールを飲みながらその後ろ姿を眺めていた。 小さなキッチンに立って黒いエプロンを付けると、彼は料理を始める。 野菜を刻む音が心地よく響いて、油の跳ねる音は食欲をそそった。 まるで料理番組を見ているみたいに手際よくお皿に盛りつけると、アッというまにテーブルに並べる。 「はい。お待たせしました。ぶりの照り焼きと、野菜多めの味噌汁と、揚げ物とサラダは先生の買ったやつをアレンジしました。お口に合うかどうかは分かりませんが」 彼はそう言いながら私の隣に座った。 「どうぞ、食べてください」 「いただきます」 一口食べて、私は思わず感嘆の声を上げた。 「んーー、おいしい」 御世辞ではなく、本当にそれは美味しかった。 元彼もよく腕を振るってくれたものだけれど、材料費ばかりかけても味はどれもイマイチ。 男の料理なんて言う付け焼刃なテクニックじゃこんな落ち着いた味は出せない。 きっと昔から作っていたんだと思った。 「藤田君て、料理得意なんだね。お母さんみたい」 なにげなくいった言葉に、藤田君はゴホっとむせた。 「お母さん、ですか。それ、よく言われます。嫁にもらいとか。実はうち、父子家庭なんですけど、僕の下に弟と妹がいて、小さいころから母親みたいなことしてて、自然に覚えたんですよね」 「あ、そうなんだ。ごめんね、知らなくて」 「いや、いいんです」 「でも、確かに嫁にもらいたいかもな、藤田君の事」 ビールは二本目。 ほろ酔い気分になった私は何気なくそう言った。 なのに、彼は急に真面目な顔でこういった。 「いいですよ。先生の嫁になら、なってもいいです」 「またぁ、いいの?そんなこと言ったら、先生、本気にしちゃうから」 ケラケラと笑う私を彼はすぐそばで見つめる。その視線があまりにも真剣で、私はピタリと笑うのをやめた。 「……藤田君?」 「僕、本気で言ったんですけど。初めて先生のオペに入った時に一目ぼれして以来、先生の事がすきでした」 「そんな冗談言ってると怒るよ。私はねまるで男みたいな女のなの。家事も苦手だし、結局いつも女医だからとか、強いからとか、そんな理由で男にフラれるの」 「ええ、分かってます。だからこそ、先生には僕がふさわしいと思う。僕を、先生のお嫁さんにしてください――なんて、変な告白させないでくださいよ」 苦笑いする彼がとてもかわいくて、こんな関係もありなんじゃないかな……なんて考えたりして。 終
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