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俺は拾えなかった。
咄嗟に兄貴を見てしまった。叱られるか、言いつけられるか、呆れられるか。自分の行動に、心の奥底で見放されたくないと思っていたんだと気づかされた。
兄貴はいつもと変わらない表情で、タバコを見つめていた。
俺は沈黙に耐えられなくて逃げ出したくなった。
タバコを拾って外に出ようと思い、体を動かそうとした。だけど、兄貴の言葉が動きを制した。
「何歳だっけ」
読み取れない表情で兄貴は言った。これから何を言われるか怖かった。だけど俺は正直に質問に答えた。
「……17」
すると、兄貴が俺の方向に歩いてきた。近づいてくる兄貴に俺は1歩2歩、後ずさった。
「もらっていい?」
兄貴はタバコを拾いあげてから、俺の目を見てそう尋ねた。俺は逃げ出したくて目をそらして返事をした。すると、いつも冷静な兄貴が語気を少し強めて言った。
「俺とお前は違う。どう生きたってお前の自由だから」
俺はその言葉に驚いた。
兄貴を嫌いになった原因の言葉なのに、俺があの時捉えた意味とは全然違うように聞こえた。俺が誤解していた本当の意味を、言葉の続きを教えてくれた。
「でも、俺はお前より少し長く生きてる。俺はお前の兄だから」
その言葉を理解したとき、俺には兄貴が全くの別人のように輝いて見えた。兄貴が俺の心を晴らしてくれた。
俺はそらしていた目線を兄貴の静かな瞳に向けた。
「兄貴、俺――」
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