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第十七話 銃撃
「さあ、信者の皆の衆。逮捕した悪人を連行するので道を開けてくれないかな? この村からいろいろ危険な臭いがするから、刑事さんいろいろ聞かなきゃならないわけなんだわ」
「おい、お前ら早くこの異教徒の悪魔を殺して俺を助けろ! こんな状態を放っておくとお前ら大神様から怒りを買うぞ! 素晴らしい来世は欲しくないのか!」
信者は理沙と須藤に襲い掛かかるタイミングを見計らうようにじりじりと接近を再開した。
「やれやれ、可愛くない信者達だ。刑事なんか怖くないってか? よし、だったら次の手だ」
理沙は警察バッジをしまうと、今度はそのポケットからリボルバーの拳銃を取り出し、銃口を昇麻の側頭部に突きつけた。
「え? お、おい、待て、ま、まさかそれ本物か!」昇麻が取り乱すように金切り声を上げた。
足を止めてどよめく信者達。
「はい、今すぐ下がらないと、あんたらの神さんの使いの脳みそをこの会場に飛び散らせる事になっちゃうよ! 不本意ながらってやつでね」
須藤は慌てて自分の上着の内を探り、肩のホルスターから拳銃が抜かれている事に気づいた。
「僕の銃! いつの間に!」
理沙は須藤にチラっと顔を向け“大丈夫、本当に撃たないから!”と伝えるようにウィンクした。
「今はそんな些細な事言いっこなしだ、マー坊。ほら危ないから私の後ろに隠れて隠れて!」
言い、理沙が拳銃を突きつけながら昇麻を羽交い絞めにすると、須藤は考える余裕もないとばかりに慌てて己の身を隠すようにその背後についた。
「はい、信者の諸君、私達は悪い子をしょっ引いてここから出ていくから、 皆おとなしく両手を挙げながらゆーっくりと後ろに下がるんだよ」
警告とばかりに理沙が拳銃の撃鉄を上げると、昇麻が恐怖と怒りを込めて信者達向かって怒号を上げる。
「何をしてるんだ、早く道を開けろ。俺は異教徒に銃を突きつけれてるんだぞ! 教団のNO.3が殺されたら、お前らは精霊になれないぞ。それでもいいのか、このバカども!」
「と、教団の偉い人がおっしゃっている。どうするかね、信者の皆の衆?」
理沙が信者たち向かってそう尋ねた瞬間、会場の入り口から短機関銃を持った信者四人が飛び込んできた。
「昇麻様、お伏せください!」
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講堂から短機関銃の激しい銃声が駐車場にまで鳴り響いてきた。
「おいおいおい……銃声だぞ! あの建物の中で何が起きてるんだ?……」
尾上が叫ぶと、また新たな短機関銃の爆音が轟く。
「クソクソクソ!」と元木は怒声を上げ、拳銃を構えると勢いよく車の助手席から飛び降りた。
「待て、何をする気だ!」
「あの二人の応援に行くんだよ、決まってるだろ!」
「ダメだ、自分の持ち場を離れるな。俺たちの仕事はあの怪物の監視と処刑、それだけだ! 教団の事には手出しする権限はない!」
「正気か? あの状態を放っておけってのか?」
「言ったろ、俺達にあの場に突っ込む権限もないし命令は命令だ! 暴れた怪物を静止する者が不在になるわけにはいかな……」
と怒声を上げている途中で尾上は驚愕の表情になり途中で言葉を止めた。
想定していなかった異様な光景が見の前に飛び込んできたからだ。
「……あれはいったい何だ?……」
尾上の異変に気付いた元木が、振り向いてその視線の先に顔を向けた。
「な、なんてこった……」
そして今、自分達に向かってゆっくりと進んで来ているものを見て、愕然としながら呟く。
「……何なんだあれは?……いったいこの村で何が起こっている?……」
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会場からの銃声が辺りの森林にも木霊するなか、城島と狙撃手達が公安二人組の前に現れたものを唖然と見つめている。
「状況が分かるまで全員このまま動くな!」
そう冷静に支持を出した城島向かって、狙撃手が叫ぶ。
「しかし、あれはいったい何なんですか? いったいどこから? 話に聞いていません!」
城島は双眼鏡から公安の刑事二人組に向かって接近していくものを改めて確認する。
「クソ、キ〇ガイ連中め! いろいろ好き勝手やってくれたじゃねえか!」
「放っておけません! 今すぐ我々で救助すべきです!」
「ダメだ、今、飛び出してあの怪物女に我々の存在を気づかれるわけにはいかない!」
もう一人の狙撃手が叫んだ。
「なんなら私一人でも行きます。あの公安の刑事二人には無理です! 奴ら自分らがすでにライフルを持った信者達に囲まれている事に気が付いていません!」
最初の一人がまた叫ぶ。
「しかも信者達が二人向かって接近を始めています! もう公安の二人に逃げ道はありません!」
「ダメだ、状況が分かるまでここから動くなと言ったはずだ!」
「しかし、救助すべきです! 公安の二人はともかくどう見ても彼女らは一般の少女です! なぜこんな所いるのですか?」
城島は全身血まみれの姿で公安の二人向かって助けを乞うように手を伸ばす女子高生三人の姿を睨み強く舌打ちをした。
「クソ、いったいどうしてこんな事に……」
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「うわああああああっ!」
鳴りやまぬ銃声と同調するような悲鳴を須藤が上げ続ける。
昇麻を盾にし、伏せさせるよう須藤の頭を押さえつけながら理沙が言う。
「心配すんな、マー坊。威嚇射撃だって」
「え?……」
確かに銃弾は須藤達を避けるように、すぐ横の足元に大量の穴を開けている。
短機関銃の弾を撃ち尽くした四人の信者は素早く新しい弾倉に取り換えた。
「まあ、って言っても今のところは、ってやつだろうけどねえ……さて、困った、困った」
盾にされた事で赤いズボンを失禁で濡らした昇麻が怒りで叫ぶ。
「てめえら、危ねえじゃねえか! 俺に当たったらどうするんだ! おい、上草!」
短機関銃を構えた四人の中から上草と呼ばれた男が狙いを定めながら返答する。
「失礼をお許しください、昇麻様。今、お助けします」
「早くなんとかしろ! この役立たずめ! 俺は教団のNo.3の昇麻様なんだぞ! 教団の幹部の俺の命はお前らなんかのよりもはるかに重要なんだからな!」
「ああ、もう、さっきからNO.3、NO.3うるさい! 何もできないんだったら黙ってろっつの、このクズ!」
言い、理沙が後ろから昇麻の頭をぺしっとはたいた。
「いてえ!」
四人の機関銃がまた火を噴いた。
壁や床に数えきれないほどの風穴が開き、大量の木の破片や塵が空を舞う。
「うおおおおお、こりゃ、ヤバい。おい、マー坊、もっと体を縮めろ。昇麻の背中はそれほど広くないぞ!」
「それよりこうなるのが分かってて教団の幹部の頭をはたかないでください! こっちは劣勢なんですよ!」
四人の銃撃がいったん止まると、また上草が話をかけてくる。
「警察だが何者だか知らんがバカな事は止めろ。お前らに勝ち目はない。昇麻様を放せ」
「勝ち目がない? ほお、こりゃおったまげた。その根拠は?」
「知ってるぞ、その拳銃は弾が5発しか入らない。とてもこちらの信者の数には足りない。それに我々は死を恐れない。だから拳銃を捨てて昇麻様を解放しろ。お前らの処分がどうなるかは保証しないが少しは温情を与えてやってもいい」
上草と一緒に信者達がまたじりじりと前に出た。
「へええ、死を恐れない?」
「ああ、むしろ望むところだ。教団のために死ねば我々は精霊になり次には素晴らしい来世が与えられるのだからな」
信者達の表情には恐れが見えない。完全に精霊になれるという話を信じているようだ。
「待った、話し合いましょう。ここは話し合いで解決できるはず……」
そう須藤が言葉を放っている途中で拳銃が爆音を鳴らし昇麻の右の耳たぶが吹っ飛んだ。
「それじゃあ、あんたらの昇麻は死を恐れないかな?」
「ぎゃああああああっ!」
血を垂れ流す右耳を空いている手で押さえながら、昇麻が絶叫をあげた。
その様を見て、須藤が貧血でぶっ倒れそうなほど顔を真っ青にしながら叫ぶ。
「ええええええええ~~!」
そして“撃たないって言ったじゃないすか!”と咎めるように横目で強い視線を理沙にやる。
理沙は“仕方がなかったんだっつの!”と言わんばかりにふくれっ面で両肩を傾げると、銃口をまた昇麻の右側頭部に突きつける。
「さあ、弾は残り4発。ま、確かにあんたら全員の相手はできないけど、このクズ一人には十分な弾丸の数だと思うね!」
信者達が全員、足を止めた。
「さあて、さてさて、今度こそ道を開けてもらおうか? それとも昇麻は今この場で精霊になりたいって思ってるのかな、まさかね? そこんとこどうよ、昇麻の旦那?」
激痛と恐怖で戦意を失ったような顔で昇麻が命令を出す。
「お、お前らこの女の言う通りにしろ!!」
信者達が憤怒の表情で立ち尽くす。中にはすすり泣く女信者も出てきた。
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