第二十七話 反乱②

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第二十七話 反乱②

「そのう……みません、祐華様、俺達話し合ったんです。もしかしたら俺達、いろいろ考えすぎちゃったのかなって……」茎陽が気まずそうに言った。 「は?」と祐華。 「ほら、周りを見てくださいよ。この国で裕福な環境に生まれた人間なんてごく一部。ほとんどの人間が満たされない生活を送っているはずです。それなのに誰も文句を言わず、選挙にも行かずに世間に波風立てないように生きている。だから思ったんです、あれあれ? もしかして俺達過剰にこの世への怒りと被害者意識を持っちゃったかなって?……」 「……いやいや、お前ら……」  祐華が思わず信者達の反抗に唖然としていると、電話が鳴った。 「ちょ、ちょっと待て。真師からだ! お前らそのまま動くなよ!」  100%狼狽の表情のまま祐華は携帯を取ると、液晶画面を何度かタップした。 「さ、さあ、皆も真師の声を聴いて目を覚ませ! 考えを改めろ!」 「あのう……」とそのスピーカーに切り替えられた携帯電話から教祖の貫禄のかけらもない若い男の声がする。 「祐華様……申し訳ございません、少し問題が……いえ正直、かなり大きな問題が……」 「えぇぇぇ……」祐華が嫌な予感を噛みしめるように苦い表情をした。 「その声は藻菊だな! いったい何があった? そっちは順調に進んでいるのだろうな」 「そ、それが……」と今にも泣きだしそうな情けない声で藻菊が続ける。 「時間が来たのに真師様が大神の体に変身せず意識を失ったままです。まだ時間が必要かと思われます。こうなったらこの後の祭事の時間を後にずらしかありません。それか大神の復活抜きで祭事を続けるか、ここで祝祭を中断してまた別の日に改めた方がよいかと……」 「は? 何を言ってる? 真摯の体に大神が復活し、巨大魔神の元で闘うのが祝祭を成功させる需要な鍵となるのだぞ! それにここまで来て今更、別の日に変更などできるわけがない!」 「しかし、あの製薬会社の計算ミスかは分かりませんが大神の復活に遅延が発生しています……そちらの祭事場では事はうまく進んでますか? もう数多くの精霊を出していますか? そのう……こちらの準備が整うまで、そちらであと4、5時間持ち堪えられますでしょうか?」  祐華は愕然するあまり脱力し、携帯電話を手の内から地面に落とした。 「うっわ~~……何もかもぐっだぐっだじゃん……」  困惑した表情で祐華が言うと、今までうつむいていた女信者の小根が感情を込めて声を上げる。 「本当に申し訳ございません、祐華様。けど私達、やっぱり人を殺すなんてできない! いくら我々の生活をよりよいものにするはずの政治家達が増税と己の利権しか考えてなくて、貧富の差やヘイトのネトウヨ野郎が野放しにされている世の中とはいえ、我慢して生きていれば必ずいい事がある。だって本物の神様が天から私達の事を見守ってくださっているのだもの。だから、いつかこんなの私にも必ずいい事が……」  と、その瞬間、小根の額に銃弾がぶち込まれ、その頭から鮮血が飛び散った。 「え?…………」  祐華がそう声を出して目を点にすると、信者達も一瞬で絶命した小根を唖然と見つめる。 「ええ?……」  そして、全員そのまま視線をゆっくりと銃声がした方向に移した。  すると、通報を受けてきたと思われる複数の警官の一人がまだ硝煙が銃身に残っている拳銃を構えながら取り乱し始めた。 「え、ままままま、待ってくれ、誤解だ。じゅ、銃が勝手に暴発した。う、撃つ気はなかった! ほ、ほんとだ、警告で銃を向けただけだったのに! だ、だからこれは事故! う、運が悪かったんだ。す、すすすすすまん!」  その謝罪の声が耳に入らないほどショックを受けたか、芽土が無感情の顔のまま機関銃を発砲し、小根を殺した警官向かって大量の銃弾をぶち込んだ。  と今度は警官全員が蜂の巣になって死に絶えた仲間の死体を唖然と見つめる。 「ええ?…………」と警官全員が小さく声を漏らした。  そして、その中の一番地位が高いと思われる警官がへっぴり腰ながらも拳銃を抜くと、他の警官達も体を震わせながら信者達向かって銃をかまえだした。 「う、うわあああああああ! お、お前ら動くな! た、逮捕する」 「ひ、ひぃぃぃ! に、逃げろ!」我に返った芽土がそう叫ぶと、信者達は抵抗の意思を見せる気配もないまま、信教と共に機関銃を道路に投げ捨て悲鳴を上げながら逃げ回り始める。 「おい、待て、逃げるな! お前ら、闘え! 祝祭はこれからだぞ! 大神様への忠誠心はどこへ行った!」  祐華はそう力強く声を上げると、信者を目の前で殺された怒りを込めて警官達向かって機関銃を掃射する。  しかし、いくら機関銃が火花を散らせど警官達は一人も倒れない。 「え? そういえばさっきから私も一人も精霊にしていない。あれだけ撃っているのに! いったいどうして?」  祐華は何が起きているんだ? と尋ねるように逃亡せずその場に留まっている葵深に顔を向けた。 「すみません、祐華様。勝手にあなたの機関銃の弾を空砲に替えておきました」 「は?……なぜ?」 「分かってる。あなたも人は殺せない。テロなんてもってのほか。照準を外して撃っていたのは我々だけではない。あなたもです! あなたも空砲ながら機関銃の銃口をあさっての方向にむけていた」 「バカな! そんな事あるか! それよりなぜ、私の機関銃に細工をした!」 「あなたのような美しく、本当は誰よりも優しいお方が人を殺傷するなんて恐ろしい事をやってはいけない!」 「え……なに突然?」    そこで葵深はぽっと顔を赤らめた。 「…………好きでした。初めてお会いしたその時から、あなたの事を心の底から!」  葵深は震える声でそう言うと、恥じらいを隠すようにキャッと声を上げて自分の顔を両掌で覆った。  祐華は茫然とした表情で言う。 「…………いや絶対、今、そんな空気じゃないと思う……」  そして、そんな空気お構いなしに大勢の警官の群れが次々とミサイルのように祐華にタックルをし、その体を強く地面に押し倒した。 「六時十五分、被疑者、身柄確保! 六時十五分、被疑者、身柄確保!」  何重の層となるように祐華の体に覆いかぶさった大勢の警官達の中から、山の一番上となった警官がテロ犯のリーダーらしき人物の逮捕に興奮を隠さずそう叫んだ。  警官達に埋もれながら祐華は怒りの声を上げる。 「放せ、 し、真師! いえ、大神様、早く復活を! 巨大魔神が我々を待っているのですぞ!」
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