第三話 怪物との対面

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第三話 怪物との対面

 階数の表示がないエレベーターに乗せられ、しばらく地下向かって降下を続けていると須藤は怪物女が閉じ込められている牢が設置されている最下階にたどり着いた。 「…………」  そして、見た目からその厚さが伝わってくるほど頑強な鉄扉がある部屋の前まで進むと、その扉がゆっくりと横に移動し、自動小銃を手に添え警備の隊員が姿を現す。 「お待ちしておりました、警視。例の怪物がお待ちかねです。さあ、どうぞ」    不安を増幅させた須藤がおどおどしながら警備の隊員と牧田の後について室内に入っていった。 「…………」 そこではさらに二人の隊員が機関銃を構えながら、奥にある防御ガラスに隔たれた部屋を見張っており、そのガラスの向こうの空間には金髪のロングヘアーに迷彩柄のTシャツとダメージ入りのジーンズというラフな服装の女が立っている。 「さあ、須藤君。紹介しよう、あれが君の捜査のパートナーとなる都市伝説・口裂け女だ!」  言い、牧田がガラスの向こうの女に指をさした。 「え……あれが?……」  須藤は怪訝そうに眼を細め、その女を凝視する。 女の身長は170センチ程。血色はよく、目つきは悪いながらも顔のパーツがバランスよく整った小さな顔。歳は10代後半から20代に差し掛かったといったところか?     まったくもってこれまで聞いてきた口裂け女の都市伝説と異なっている。  昭和の時代の怪物というのなら年齢も計算が合わないだろうし、身長も長身ってわけじゃなく、服装のイメージも全く違う。そして何よりも伝説と異なるのが……。 「は?…………」 「何がだね? 須藤君」 「い、いえ、で、ですからあの女性、……そのう……確か私の捜査のパートナーとなるのは口裂け女ですよね?……」 「ああ、なんだ、その事か。細かい事は気にするな。奴の口が裂けていたのは昭和の時代の遠い昔の話だぞ。さすがにもう裂けてはいないさ。まあ、これも時代の流れってやつだな。別におかしな話じゃないだろう?」  え?……時代の流れ?……え? はい?……これってどういうこと?   「あ……そうか」  と、須藤はそこでポンと手を叩いた。  うん、絶対間違いない! やはりこれは若手を試すための裏テストなんだ! 警察のどの部署の誰が計画したか分からないが、そうに決まってる! そもそも口裂け女なんて現実に存在するわけないじゃないか! バカバカしい。いやいや、一瞬、本気で焦ってしまった、まったく!   「ハハハハ………なんだ、もう……」 「だから見てのとおりだ。彼女を口裂け女だと理解してくれたかね? 須藤君」 「いいえ、無理です!! まったくもって理解できません!!」    と須藤はズバッと言ってやった。 「は?」 「よく見てください、警視! 残念ながらガラスの向こうにいる彼女が都市伝説と異なるのは口だけじゃありません。都市伝説では口裂け女は長身で、目は細めの日本美人ときてます。しかし、あの目つきの悪さからは日本美人として必要不可欠の清楚さが絶望的に感じられません。ホント、遺憾ながらゼロです!」    言い、今度は裁判所で被告に決定的証拠を突きつける熱血検事のごとく、ビシッと女に指をさした。 「それにあの頭! 伝説では口裂け女は綺麗な黒の長髪ときているのに、彼女はどきついほどギラギラの金髪ときている。それにズタボロのジーンズにラメ入りの迷彩柄のTシャツというのも口裂け女のイメージとしてはどうかと。正直、あそこに座っている女性は完璧なほど品性が欠けています」  と、須藤はそこで大仰に首を横に振り、失望をアピールする。 「ああ、残念すぎて言葉がありません!」  須藤が自分の想定とは違う行動に出たからか、牧田が仰天したように血相を変えている。 「あ、あの、須藤君……待った、待ってくれ……」 「結論から言いますとガラスの向こうのあの女性は口裂け女というより、フリーターのギャルにしか見えません! いえ、実際に正体はその通りのフリーターのギャルなのでしょう! 見た目通りの! さあ、どうです、この僕の推理! はパスですか?」  と、自信満々の顔で尋ねた須藤の両肩を牧田が必死の形相で掴んだ。 「す、須藤君!」 「はい、なんでしょうか?」  牧田の額にどっと汗が零れた。何か重大なトラブルが生じたと言わんばかりに。 「その……悪いがここは防音じゃないんだ……」 「え?」 「……だ、だからこことガラスの向こうは防音となっていない。つまり……今の君の個人的な感想は……全部、あの怪物女に丸聞こえだ……」  今度は須藤がどっと冷や汗を流した。正真正銘の畏怖をたっぷり感じて。 「はい?……丸聞こえ?……あの怪物女に?……」  恐る恐るゆっくりと女の方に顔を向けると、互いに目が合った。 「ぐおおおおおおおおおおっ!」  そう獣のよう吼えると女はくわっと目を見開き、須藤に飛び掛からんばかりの勢いでガラスに突っ込んできた。  仰天のあまり須藤は思わずへっぴり腰で後ろへ退けた。 「え、え、え、え、えっ! 何、何、何、何!」  警備チームの三人が緊張した顔で銃口を女に向け怒号をあげる。 「クソ、ヤバいぞ! 奴を興奮させちまった!」 「下がれ、近寄るな! ガラスから離れろ、元の位置に戻れ。撃つぞ!」  三人の隊員は自動小銃の照準を絞った。いつでも発砲できる状態だ。 「元の位置に戻れるんだ! 今すぐに!」  女は銃口を意に介さないとばかりに、警備チームに視線さえ向けない。  激しく興奮しており、肉食獣のごとくギラギラした目で須藤を凝視する。 「おおおおおおおおおお……」  須藤はまた一歩、後ろへ下がった。恐怖で塗れた表情で。 「う……」  と、その硬直状態が十秒ほど続くと、女は須藤という獲物の外観に満足したのか、牧田に向かってニコッと笑顔を浮かべて親指を立てた。 「牧田のとっつあん、グッジョブ!」  え、グッジョブ? 
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