第三十二話 女子高生だったもの

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第三十二話 女子高生だったもの

 「なんでこんな事に?…………」  元木は唖然自失とし、高速道路の路上に立ち尽くしていた。  教団の村から救急車で女子高生達と移動中にさらなる驚異に襲われたからだ。  恐怖のステージのはこんな始まり方だった。 「こりゃいったいどういうことなんだよ、おい!」  けたたましくサイレンを鳴らす救急車の中で元木が瞭然とした表情で叫んだ。  その横にいる救命士も恐怖で顔を冷や汗まみれにしている。 「痛い、痛い、痛い、痛い!!」  叫びながらストレッチャーに乗せている真澄が助けを求めるように右手を伸ばす。  しかし、その腕全体は筋肉が少女のものとは思えないほど異常に膨張し、あちこちの毛穴から血が噴き出し始めている。 「うう……痛い! 体じゅうの全てが痛い……体の中で何かが暴れてる! 痛い、痛い、痛い! 助けて、パパ、ママ!」  そして激しく甲高い絶叫を上げると真澄の両目の瞳が突然、赤く変色し、右手の方も骨がきしむ音と共にさらに膨張を続け、まるで別の生き物もののように変形していく。 「なんだ、おい。今度は何が起こってるんだ!」今度は元木が叫ぶ。  救命士が恐怖で自失しそうなほど顔を蒼白にさせて言う。 「何の薬を打たれたのか分からないし、この少女の体に何が起きているのか想像もつかないがそんじょそこらの病院じゃ対応できない。設備の整っている病院に進路を変えよう!」  言い、指示を出そうと救命士が顔を運転席に向けた時、運転手が緊迫した声を上げた。 「おい、あいつら何をやってるんだ! 危ないぞ!」  元木と救命士が何事かと身を乗り出し前方の道路を見ると、安奈を乗せて先を走っていた救急車が左右に大きく蛇行運転をしている。 「何て運転してやがんだ! 対向車と衝突するぞ!」運転手がまた叫んだ。  その安奈を乗せた救急車は車内で猛獣が暴れているかのようにコントロールを失い、さらに右へ左へと揺れながら猛然と道路を突っ走る。 「……あっちの女子高生にいったい何が起こってる?……」  唖然とした表情で元木が囁いた瞬間、背後のストレッチャーから獰猛な獣のような重い吠声が轟いた。 「!!」  そして。  救急車は二台まとめて路上に横転した。  まず安奈を乗せていた救急車がパニックの中、勢いよく急ブレーキをかけ、元木と真澄を乗せていた救急車と衝突。その勢いで二台の救急車はバランスを失い、怪物の咆哮が響く中、勢いよく道路に横転した。  ボンネットから煙が吐き出し、内部から炎がちらつく中、元木と救命士がバックドアを開き、へっぴり腰で救急車の中から脱出する。 「クソクソクソ、なんだあの化物は!」元木がパニックになり声を上げる。  そして、その後に続き真澄だったモノが道路へ飛び出してきた。 「ひいいいいいいい!」救命士が絶叫を上げた。  その真澄だったモノは前長2メートル、着ていた衣服は完全に内から引き裂かれるほど体の筋肉が膨張しているが、中途半端に発達した手と足の長さはそれぞれバラバラで、髪の毛は全て抜け落ち、顔を含め体じゅうの腐敗した皮膚が垂れ流れるようにずるずると地面に向かって落ちていっている。 「ク、クスリ……チュウシャシテ……タリナイ……モット、チュウシャチョウダイ!」  不快感を覚えるほどのけたたましい声で叫ぶと、真澄だったモノが苦しみをぶつけるように、その巨大な拳を救急車めがけて振った。  救急車がまるでボールのように回転しながら宙を舞い、地面を転がっていく。 「や、やべえ、すげえバカ力だぞ!」元木は仰天の声をあげ、慌てて逃げようとするが、道路の上で腰を抜かしている救命士同様に恐怖で金縛りにあったように動けない。 「クルシイ、クスリ、チュウシャ、チョウダイ! モット、モット! タリナイ、タリナイノ! タリナイ!」  真澄だったモノは今度は元木と救命士に目をつけ、四つ足走行で迫って来る。 「いいいいいいい!」と言葉にならない悲鳴を上げて抱き合う元木と救命士。 「ハヤク、ハヤク! クスリ、ハヤク、ハヤク、モウダメ、モウダメ、モウダメ!」  襲い掛からんとその巨体の上半身を勢いよく起こしたとたん、その衝動で腐り続けていた真澄の首がもぎれ落ちた。 「ぎゃああああああ!」と抱き合いながら元木と救命士が驚愕の声を上げると、地面に落ちた真澄だったモノの生首が目から涙をこぼし始める。 「……パパ、ママ、イエニカエリタイ、イエニカエリタイヨウ……」  そして、最後に生首が大きく息を吐くと、その命が絶えるのを告げるかのように残された胴体が崩れるように地面に倒れた。 「…………」  腐敗が進みドロドロになっていく真澄だったモノを唖然と見つめていると、先を走っていた救急車の運転手と救命士が蒼白な顔で走ってきた。 「こ、こっちの女子高生も化物になったか!」運転手が震えながら言った。  元木が視線を先に走っていた救急車の方に向けると安奈だったモノが道路の上で真澄だったモノと同じように体中を溶解させた死体となって倒れていた。 「こ、この化物、いったいなんなんです?……」  運転手の質問に答える余裕がないと言わんばかりに、元木は深刻な表情で呟く。   「おい……確かって言ってたよな……」  そして、恐怖と焦燥感のあまり一度、強く歯を食いしばった。 「くそ、あの怪物女と新人に教えてやらないと……このままじゃ狂気の沙汰って言葉じゃすまないくらヤバい事態が起こる事になる……」 
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