第四十三話 最終テロの地

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第四十三話 最終テロの地

 城島は忸怩たる思いで道路に立ち尽くしていた。  と、そこへ狙撃手の一人が運転する車が現れ、窓を開ける。 「すまなかったな……迎えに来さして……少し取り乱したようだ……」  詫びる城島に何の追及をする事無く、狙撃手はドアのロックを解除した。 「だが決めた……もう逃げない。昭和の時から奴に怯えて逃げてきた。それも半世紀という気の遠くなるほど長い間……もう、うんざりだ。令和になった今でも昭和の怪物に怯え続けるのは御免だ。奴と今晩ケリをつける。脳裏の中で何十年も見続けてきた悪夢をこの手で葬り去る!」  決意固く宣言した老人に向かって狙撃手が尋ねる。 「でもアカネ十字社はどうします? まだ指示が出ていませんが? 勝手な事をすると後がヤバいんじゃ?」  後部席に乗り込むと、城島は何も恐れないとばかりに強い口調で言う。 「知ったことか! もうクスリ屋連中に指図される気はない。俺は俺の意思と怨念であの女を殺す。せっかくいい狙撃手を集めていいチームを作ったが、アカネ十字から金が出なければ皆、今回の件から離脱となるだろう。まあ、それでも構わん。俺一人で奴と対決しに行くさ」  すると運転手が首を横に振った。 「それはダメです。知ってるはずですよ、城島さん。俺は爺ちゃんをあのクソ女に殺されてる。俺もご一緒させて頂きます。あの怪物を独り占めにはさせません」  城島はその覚悟を受け取るとほくそ笑んだ。 「よかろう。それで今、俺達の獲物の怪物はどこにいる?」 「今はまだ他の狙撃手の連中が奴を張っていますが、今、あの怪物女達がを知ったら、腰を抜かすほどぶったまげますよ」 **********************************  牧田が車を制限速度無視で車をぶっ飛ばす。道交法などに構っていられないとばかりに耳に装着したイヤホンで通話しながら。 「都庁付近のビルで機関銃らしき銃声が鳴り響いている? くそ、教団だ……決まってるだろ? 一般の企業のサラリーマンが機関銃を携帯しているとでも言うのか! 少しは考えろ。それに今、口裂け女と同行している新人刑事から俺に連絡があった、教団の最終目的地が都庁だとな!」  しばし、相手の言葉を聞いてから、牧田は焦燥した声で答える。 「何、官房長官が俺を呼んでいるだと? 俺も丁度そっちに向かっている最中だ。赤い福音が今回のテロで何を最終の目的としているかを読めたからな。また何か新しい情報が入ったら連絡しろ、いいな!」  命じると、牧田は苛立ちを発散させるように右手の拳を車の天井に叩きつけた。 「キ〇ガイどもが! よりにもよって都庁を最終テロに狙うとは! 畜生め、奴らは都庁の最高機密を知っていたというのか? ヤバいぞ、本当にヤバい事になった。奴らは都庁の秘密を知っていた。このままだとによってこの東京全土が地獄の炎に焼かれる事になる!」 **********************************  後ろ手に手錠を嵌められ、理沙にシャツの襟元を掴まれた鷹藤が懸命にもがきながら1階の正面玄関から東京都庁第一本庁舎に引きづられていく。 「やめろ~放してくれ。俺を都庁の中に入れないでくれ! ここは本当にヤバい事になるんだ! この俺を巻き込むなー! 家に帰してくれー!」  理沙が強引にに後ろ歩きをさせながら1階ロービーの奥へ進む。 「ほおら、観念してちゃきちゃき歩け、ゲロ男爵!」 「この俺をそんな名で呼ぶなあぁぁぁぁ~!」  時計の針は午後9時ちょうどを指しているが、都本庁舎の一階フロアは夜の東京の夜景を一望しようと展望室に向かう観光客や、仕事を終え帰宅しようとオフィスから降りてきた職員達など人が多い。  そして、全員が例外なく不審な視線を騒々しい理沙と須藤、鷹藤の三人に向けている。 「なんてこった、まだこんなに大勢の人が残っている……」  須藤は慌てふためきながら携帯電話を手に取りダイヤルする。 「僕です、須藤です。危険が迫っているのにまだこんなに都庁に人が残っています! 急いで避難させてください」  電話から緊迫した伊瑠沙の声が返ってくる。 「手を打ってるところだ。改めて確認をするが本当に都庁が紅い福音の最終ターゲットなのか?」 「ええ、教団NO.2の言葉を僕も直に耳にしました。もうじき残り百100人の信者もここに集結し、都本庁舎は危険な状態になると思われます」 「分からん、都庁でいったい何が起こる? そんな所を信者100人で襲撃していったい教団に何の利益が?」 「そこまではまだ分かりませんが、間違いなくここがです。ここへ向かっている最中、牧田警視に電話で事情を話して警官と消防車を要請したのにまったく避難活動が行われている兆候がありません! 危機が迫っているのに都庁は何もかもが通常営業状態です!」 「牧田と話したのはいつだ?」 「小林商事を出てすぐですから数分前です」 「くそ、バカたれが! 警視だからって何でも可能だと思うな、新人! 大統領でも神様でもないんだぞ! ともかく分かった、私もできる事はやる! 一先ず都庁の管理の責任者と至急連絡を取る!」  その時、北展望室が閉鎖されている旨が書かれている案内の表示を見た理沙が鷹藤を道連れするように南展望室直通のエレベーターに向かった。 「え、ちょっと待ってください、警部! どこへ!」  禍々しい人間達の出現に困惑し、おどおどする案内係の社員と守衛に警察バッジを向けながら須藤もエレベーターに飛び込む。 「どうしたんです、警部! こんな時にいったい展望台で何をする気ですか?」  そのドアが閉まりだすと、須藤は慌てて顔の向きを変え、職員を含めたロビーにいる人間に向かって大声をあげて訴える。 「皆さん、ここは危険です。早く逃げてください。詳細は省きますが僕を信じて早くこの場から退避を! 早急に遠くまで避難してください!」  その後ろで鷹藤が涙ぐみながら訴えかける。 「畜生、俺をどこへ連れて行く気だ。頼む、手錠を外してくれ、お、大勢の武装したキ〇ガイ信者が、赤マントがここを襲ってくる! ここは戦場になるんだ、お前らも俺と一緒にここから避難したほうが身のためだぞ!」 **********************************  官房長官の吉城はこれまでの長い政治家人生の中で経験した事のない強度の不安と緊張に、喉の渇きを抑えられなかった。 「住富証券の新宿オフィスから機関銃のような激しい発砲音があったとの通報が続いています。それも一件ではなく数えきれないほどの通報が!」  若き副官房長官の友川が逼迫した口調でそう伝えると、吉城は額の脂汗を手で拭った。 「住富証券……そうか都庁本庁舎の近辺にあるあのビルか……」 「はい、それと同時に脱走した赤い福音のNO.2の女と一名の信者と共に、赤いマントを羽織った巨体の男が通行人を襲いながら都庁の方面に前進していると通報と、今回、紅い福音の極秘捜査を担当していた名智・伊瑠沙課長から教団の最終目的が都庁だとの情報が……」 「そうか……どうやらそこが奴らの最終テロの目的地なのか……よりによって都庁が……」  拭ったばかりの吉城の額にまた汗が滲み出してきた。 「この事は官僚を含め、他の誰にも告げていないな?」 「はい、しかし、早急な報告が必要かと。赤いマントと呼ばれる男が都庁まで行く道で発狂したように人を襲い続けて死傷者が続出しています。身柄を確保しようとした警官達からも被害が!」 「赤マントを含め教団が都庁を襲撃しようとしている事を、首相を含め官僚は知っているのか?」 「いえ、私も今長官に話したくらいですからまだかと……」 「だったらまだ告げるな……首相だけではなく大臣の誰にもだ」  まだ副官房長官の座についてから時間が浅いとはいえ、この非常時における吉城の不可解な指示に友川は不審そうに顔をしかめた。 「いいから言う通りにしろ! それに何があっても都庁襲撃の事は絶対報道の連中に知らせるな! 国民にも全てシャットアウトするんだ! たった一人の国民にもこの事を知られてはならん!」 「し、しかし、目撃者や証券会社の前の動画がUPされています。マスコミが都庁に向かうのも時間の問題です!」 「くそ、牧田警視はどうした。奴の都市伝説の知識を借りたい。いまどこにいる?」 「も、もうじき到着するかと……しかし、今は都市伝説を語っている場合ではないかと……」 「いいや、今こど都市伝説について語る時だ。いいから急げ、このままではが出現する事になるぞ!」
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