第四十七話 最後の祭事の始まり

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第四十七話 最後の祭事の始まり

 葉咲は住富証券のオフィスの窓から都庁の中に列を乱さないまま流れ込んでいく武装したホームレス達を見ながら携帯電話に向かって声を上げる。 「祐華様。様子が変です。ホームレスを装った兵士と思われる連中が都庁に入っていきます。相当な数です! 警察に我々の目的が悟られたのかもしれません! 今すぐ我々も都庁に突入しますか?」  電話から祐華の沈着な声が返ってくる。 「落ち着け。妨害がある事は想定内だ。それに昇麻のおかげで都庁に駆け付けられる警官の数は減少させられたうえ、大神がいれば相手が何百人の兵隊だろうが簡単に駆逐できる。そのために我々は大神様の復活を待ったのだ、慌てる事はない。我々の到着を待て」 「……畏まりました!」  葉咲は電話を切るとまた高層ビルの窓から外の様子を窺う。  すると、今度はバラバラと大勢の職員や観光客が慌ただしく第一本舎から駆け足で出てきた。  横にいる信者の一人が焦ったように叫ぶ。 「くそっ、やはり感づかれている! このままでは政府と警察による巨大魔神の奪取の妨害が始まります! 巨大魔神を手に入れられなかったら祝祭が失敗に!……」  葉咲は忌々しそうに舌打ちをすると機関銃を掲げ、他の信者達に向かって振り返った。 「皆、準備をしろ。最後の闘いに出向く時が来たぞ! 祐華様が何と言おうとこのままでは巨大魔神の周辺を警察に固められてしまう! 今から我々で攻撃を開始するぞ!」 「し、しかし、祐華様の命令が!」  反対した信者向かって葉咲が殺意溢れる目で答える。 「今、ここの指揮を任されている幹部は私だ。私に従え! それとも巨大魔神をこのまま政府の所有物にしておく気か? どちらにしろ我々は来世のためにも敵に背は向けられないのだ! 大神様からの祝福を得るためにな、違うか? ここにいる皆は真師への忠誠とこの闘いの大義を忘れたわけではあるまい?」 「…………」  恐れを表情に交えながらも、100人近くの信者達が頷いた。 「違いない……ここは行くべきだ」一人の信者が言った。 「ああ……俺達は人々に祝福を与えて解放しなくてはならないんだ……こんな所で留まって終わりになんかできない」  もう一人の信者が言うと、他の信者達も「そうだ、そうだ」と声を上げ、改めて頷き合う。 「よし、皆、出発だ。撃って撃って撃ちまくって、大神と巨大魔神のために警察の犬どもを地獄へ叩き落とせ! 良き来世の為にこの世で派手に散るがいい!」 ********************************** 「しかし、天下の名門企業のアカネ十字様がよくもまあ、こんな狂ったテロに便乗したもんだ」  理沙が呆れた顔で、蹲り続ける鷹藤の背中を指でツンツンと突いた。 「……我が社はただ新薬のプロモーションができればよかった。赤いマントを羽織っていようが、くたばりのジジイでも最強の兵士に変貌させる事を客に宣伝出来ればな。都庁に関しては我が社は関係ない。決まってるだろ? 利益は追及しても東京都の破壊まで我が社が望むわけない。だがうまく便乗して実験を行えるようなテロや破壊活動を起こってくれるキ〇ガイ団体なんてそうはなくてな……」  と、そこで鷹藤は体を丸めた状態ながらも顔を上げ、恨めしそうに理沙と須藤を睨んだ。 「だからジジイが都庁へ行くまでの破壊行為を見届け薬の成果が確認できたら、この騒動から消える算段だったのに、あろうことか都庁の中まで連れてきやがって! これからこの建物の一階から最上階まで銃弾まみれになる。畜生、畜生、畜生!……いったいお前らこの責任をどうとってくれるんだ?」  悪者のクレームは受け付けません! と言わんばかりに理沙が無返答のまま質問をする。 「国の機密級の都市伝説を知っていたからには、アカネ十字社も都庁建築の頃からそのロボット計画に一枚噛んでたかな? 直接絡んでなくとも子飼いの政治家どもから建築費の協力を要請されて答えたか? ん、どうなんだ、ゲロ男爵ってば」  鷹藤は気にくわなさそうにただ顔をそむけた。  と、これまで黙って話を聞いていた須藤が疑念で曇った顔で訊く。 「こんな陰謀が世間に知れたら、アカネ十字社は日本国中のすべてから非難を浴びて炎上しまくって灰のカスになる。赤マントにそれだけの価値が?」  鷹藤は悪びれない態度で答える。 「心配すんな、もうじきその薬をこの国の政府が必要として買いまくる。消費税導入時のように強引に国民を納得させてな!」  話が思わぬ方向に進んだ事で理沙と須藤は二人呆けた顔で声を揃える。 「は? は? は? は? 政府が? 消費税導入時のように?」 「おいおい、世情を見ろ、もうじきこの国の平和を戦争から守ってきた憲法第九条が改正される。じゃない。だがこの国はこれから軍事にどっぷりと金をつぎ込むようになる、確実にな。企業がそのビジネスチャンスを放っておくわけないだろ!」  と強気にセールスをするビジネスマンのごとく吠えると、突然、鷹藤は恐怖と絶望に苛まされるように、また蹲りながら両手で頭を抱えた。 「ああ、もう、もう、もう! 俺もアカネ十字社も都庁の狂気までは関わるつもりなどなかったのに! クソ、もうダメだ、もう間に合わねえ。赤マントとキ〇ガイ連中がここを死体置き場に変えに来る……俺も巻き込まれる。ここに残っている者は皆生きて帰れねえんだ……誰一人な……」                                   と、その時、はるか下の階から火薬が弾けるような音が微かながら連続して聞こえ始じめる。 「……おお?」と理沙が呟き足元に顔を向けた。 「こ、これは……銃声?……それも大量の?……」須藤が床を見ながら緊迫した表情で言った。  飛び交っている銃弾の数の多さを物語るように、その弾ける音の数が激増していく。  失禁せんとばかりに鷹藤の顔が引きつり、冷や汗に包まれる。 「く…………や、奴ら……とうとうおっ始めやがった。大殺戮のショーを……」  須藤が神妙な顔で告げる。 「……で……で、でも赤マントや祐華もまだ到着してないはずです……まさか信者達が勝手に銃撃戦を?……」   理沙は床の下で微かに弾けまくる銃声に聞き耳を立てると、口をへの字にして言う。 「やれやれ、だから言ったじゃん、祐華ちゃん……訓練しようが所詮、キ〇ガイの素人……必ず暴走するって」
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