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第六十話 第二の攻撃
牧田は焦燥を隠せないまま、携帯電話向かって荒い声をぶつける。
「どうした、須藤君、なぜ、電話に出ない? 今、そっちの状況はどうなってるんだ!」
その後ろで都庁ロボの様子を画面越しに窺っていた友川が悲鳴の混ざった声を上げた。
「都庁の拳が先ほどと同じ攻撃態勢の位置に揃いました! また攻撃が開始されます!」
「畜生が!」牧田が床を蹴った。
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祐華が握っているレバーを操作パネルの下のものにし、モニターの画面から標的を見据える。
「今度は何を狙っている?」スピーカー通話になった電話から権蔵が訊いてきた。
「こんな派手な余興は二度とないんだ。見てのお楽しみにしておいたほうがいいと思うが」
「お前の行動は今、全世界にいるイルミナティの会員が注目している。つまらん結果を出してこの私に恥をかかせるなよ。そうなった時はもう次はない。この言葉の意味は分かるな?」
権蔵の重い口ぶりに圧される事なく、祐華は平然と答える。
「ずいぶん傲慢なスポンサーだが、心配はいらん。期待以上に刺激的な結果を出してやる。だから口を出さずに黙って見ていろ」
レバーを操り、照準を整えると祐華は操作パネルの発射ボタンを押した。
「さあ、また行くぞ」
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都庁の拳が光を放ちながらその両手首から発射され、激しい熱と煙幕が逃げ回る人々の頭上を駆け抜けてゆく。
そして、弾となった両拳は強烈な破壊力をさらけ出すように光の量を増幅させながら、目標向かって猛然と空を突っ走っていった。
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「拳が発射されました、二度目の攻撃です!」友川が画面を見ながら驚愕の声を上げる。
「どこに向かって発射された? ターゲットはなんだ?」吉城が喚くように訊いた。
「分かりません、しかし、発射されたからには標的があるはずです!」
吉城に答えを求められるように顔を向けられた牧田が瞭然とした表情で言う。
「……これはカルト教団による無差別テロだ。コクピットにいる奴がどこを爆撃の目標したのかなんて誰にも見当がつくわけがない……そうだろ?……」
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東京の夜空を轟然と光を放ちながら二つの拳が飛行する。
そして、高層ビルや商業施設が集結する大規模なオフィス街に到達すると、二つの塊はそれぞれコースを変え、設定された二つの標的に命中した。
攻撃を受けた二つの巨大な施設は壮絶な爆発音と共に、強大な炎を立ち上げ、黒煙と建物の破片を周囲の道路にばらまきながら勢いよく倒壊していく。
二つの施設の周辺を通行していた人間達は狂乱の叫び声をあげて、熱風と塵の中を逃げ回り、車は次々と玉突き事故を起こしていった。
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中継に駆り出されたヘリコプターからの映像により、燃え上がって空を赤く染めるオフィス街の光景が吉城、友川、牧田のいる会議室の液晶モニターに映し出される。
三人が戦慄の表情でしばらくの間、絶句していると、牧田が先に我を取り戻したかのように言った。
「こ、攻撃を受けたのはどこのビルだ?……」
「カメラが現場から離れているのでどことどこが狙われたかまではまだ……」
友川が首を横に振りながら言うと、吉城は血相を変えて携帯電話をダイヤルする。
「おい、今、捜査本部はどうなっている?」
吉城が尋ねると、電話から警視総監の森田の声が返ってくる。
「混乱をきたしています。カルト教団による無差別テロ対策として捜査本部を設置したまではいいですが、なんですかあの都庁は? 政府はあんな巨大な兵器の存在を世間だけでなく警察にもまでも隠していたのですか! しかも自衛隊の戦闘機が撃墜されただけではなく、たった今、その巨大兵器が都心の高層ビルを攻撃した!」
「破壊されたのはどことどこの施設か分かるか?」吉城が正確な情報を求めた。
「いいえ、まだ特定できていません。しかし被害は相当なものになるでしょう。死傷者も未曽有なものになると考えています。もはや警察だけで対応できる事件ではありません。いったい首相や官僚達は今、どこで何をしているんですか? この事件はもうカルト教団のテロどころか大災害級の惨事となってます!」
「分かった、ともかく今はできるだけ救急車と消防車を現場に送って被害者の救助を優先してくれ。また連絡をする」
吉城はそう指示を出すと、声が取り乱したものになる前に電話を切った。
そして、戦々恐々と液晶画面に視線を戻した。
ビルの群れの中から立ち上る煙の量と、夜空を染めるオレンジの色の濃さが先ほどよりもはるかに増したものになっている。
牧田が愕然と顔を青ざめさせながら口を開いた。
「くそ、口裂け女のやつ……今、都庁の中でなにしてやがる? 何もかもがこれ以上ないほど悪い方向に向かっているぞ……」
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藻菊と名乗った信者が25階の暗闇向かって尋てきた。
「おい、誰かいるんだろ? おとなしく出てこい!」
藻菊と信者達が暗闇の中で機関銃を構える音が聞こえた時、信者の一人がフロアの照明スイッチに気が付いたらしく、25階全体に一斉に明かりが復活する。
すると、廊下に理沙と須藤が腹からうつぶせになってべったりと床にへばりついている姿が露わにされてしまった。
「え?……なに、お前ら?」とその様を見て森菊は不審そうに眉を傾げる。
「……い、いやあ~、そのだ……」とその場を取り繕う言葉が出ないかのように理沙が顔を上げてデヘヘと苦笑いをした。
藻菊と信者達は今度はそのすぐ後方で、須藤と理沙と同様に床にへばりついている葉咲を唖然と見つめる。
「な……なにしてんだ、葉咲?……お前まで……」
すると、葉咲が牙をむかんばかりの形相で金切り声をあげる。
「とっととまた照明を落とせ、隠れているのが台無しだろ。クソボケが!」
「は?」
そして今度は涙目になってキーキー声を続ける。
「大神様がいるんだよ。若い女を連れてこれなかったから私がその変わりに喰われる。そんなの冗談じゃないぞ!」
「私はばっちいからセーフ!」理沙が床に伏せながら挙手して言った。
「分かったのならとっとと電気を消せ! お前らも全員喰われるぞ、バカ野郎!」
そうヒスを起こす葉咲に森菊は呆れたように鼻で笑うと、諭すような口調で言う。
「何を言う、大神様は我々の味方だぞ。お前はいったいこれまで何を信じて……」
と、その言葉の途中で後方から信者の一人の生首がゴロゴロと転がってきた。
「え?……」
藻菊と信者対は恐る恐るゆっくりと後ろを振り返る。
「………………」
すると頭部がない職員の死体の首元から流れる血をむしゃぶりながら、怪物が奥の事務所から姿を現した。
「な、なんだあれは……」藻菊が恐怖で目をむきながら言った。
目の前に姿を現したその怪物は胴体がまん丸の形に誇張しており、手と足の四本もそれぞれ異なる長さと太さで揃っておらず、ろくろ首のように伸びた首の上には巨大な口と牙を持ち合わせた頭部が乗っかっていた。
そして、首の後ろに深紅の外套がぶら下がっている事から、その不気味な怪物の正体が赤いマントだと推考ができた。
「ええええええっ!」須藤が怪物の新しい姿を目にして仰天の声を上げた。
「ひいいいいいい!」続いて理沙も同じ趣旨の声を上げる。
外套を揺らしながら、赤マントだった怪物はこれから人を襲って喰らう前の雄叫びを上げる。
「タリナイ、モット、モット! モットモットモット!」
そう甲高い不快な声を上げた次の瞬間、怪物の巨体が触手のように伸びた手を振りながら、猛然と理沙、工藤、信者達に向かって突進を始めた。
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