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極造の側頭に銃口がめり込んだ。
「健太、なぜここに?」
想定外の人物が極造を脅す。
「凍月美子の仇を討つためだよ」
「はぁ?」「やめて!」
驚声と悲鳴が被った。もうもうと白煙が立ち込め複数の人影が錯綜する。
何と死んだはずの竜也が健太をねじ伏せM47を構えた店長が裏口へ促す。「こっちだ!」
「あんた、入院してた筈じゃ?」
極像はおっかなびっくりだ。
「俺が病院送りにしてやったのは健太のダチだ」
「わけがわからねぇ」
床板を踏み鳴らしながら店長は矢継ぎ早に語った。
事の発端はユークの創業者の後継者問題だ。健康不安を抱える彼女は持ち株を兄のマーチ南に譲ろうとした。だがメイには愛人がいた。凍月美子だ。
紅夕青月を通じて関係を深め次期社長確定の睦言を得た。それを兄が聞きつけ激怒した。密告したのは健太だ。彼は極造が主催するオフ会の常連として美子と親交を深めていたが、店長は極造の勤務態度を評価した。
叔父の裏切りに焦った健太は美子をあてうまから恋人に昇格させた。
ユークの女優を身内にすれば店長も考えを変えるだろう。
だが目論見は崩れた。マーチが週刊誌に妹を売ったのだ。
隷属関係にある女優が複数いる。もちろん事実無根だ。
だが説明会見の代わりにメイは兄の抱える爆弾を起爆した。
それはユーク株の将来的簿価を担保とした巨額の融資だ。
少子高齢化で縮小するアイドル市場。マーチは興行ノウハウの活路をDXに求めた。そのためにゼネコンと組んで水面下で計画を進めた。
重大な背任行為は女子化粧室の会話を通じてメイの地獄耳に入っていた。
ユークの将来を想う独善だと黙認してきた。
だが兄の卑劣にメイは殺意が沸いた。
そこで大入り袋を支給してあぶり出しを敢行した。
複数の釣果に愛人の名前があった。
メイは激怒し強硬策を打った。
あの夜、凍月美子は舞鶴港から出国する予定だった。
だが原因不明のシステムエラーでキャンセルされた。
慌てた彼女は極造の店に電話を入れた。
ドタキャンすればいつものメンバーが集まる。
頼ってどうにかなるものではないが三人寄れば文殊の知恵という。
作戦は成功したが彼女は墓穴を掘った。
非通知の主はUSBを倍の値段で買うという。
ただし条件があり「仲間と一緒にパキスタンへ飛ぶ用立てをしろ」という。
美子は故買屋と接触し消された。
「待てよ! じゃあ、お前は何者なんだ?」
造船ドックの前で美子は立ち止った。
極造は目の前の女性、メイを見つめた。彼女の顔はどこかで見たことがあるような気がした。その瞬間、彼女が口元に手を当て、微笑んだ。その笑顔が何かを引き金にした。
「えっ、君はメイなのか?!」
極造の声は信じられないほどの驚きと混乱で震えていた。
メイはゆっくりと頷き、変装のウィッグを外した。その瞬間、極造の脳裏に「美子」としての彼女の顔が重なった。
「はい、私がメイです。そして、美子でもあります。」
極造は言葉を失った。彼がこれまで「美子」として知っていた女性が、実はユークの創業者であるメイだったなんて。
「でも、なぜ? なぜそんなことを?」
メイは深く息を吸い、極造の目を真剣に見つめた。
「私には理由があります。場面緘黙症のため、表舞台は避けていました。でも、現場で何が起きているのか、自分の目で確かめたかった。それに…」
「それに?」
「私も、普通の女性として扱われたかったんです。極造さんは私を美子として、ただの一人の女性として見てくれました。それが嬉しかった。」
極造はその言葉に何も言えず、ただただメイを見つめた。そして、ようやく口を開いた。
「それなら、これからも君を美子として、またメイとして尊重するよ。」
メイの目に涙が浮かんだ。
「ありがとう、極造さん。」
二人はその場で深く抱き合い、それぞれの秘密と真実を受け入れたのだった。
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