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遠花火
日も落ち、騒がしかった夏の風物詩達が黙り出す。生暖かい風が枝葉の間を通り抜けて、鈴の様な鳴き声とともに頬を撫でる。
昔、夏祭りと騒いだ時と同じ匂いが鼻をくすぐった。
永遠と続くコンクリートをぬけて、これから先の人生はこんなにも変わらないかと、鼻で笑いながら帰路を急ぐ。いつもと変わらず、当たり前の道は何時もよりも人が少なかった。いつもと同じ時間、いつもと同じ道。目をつぶっても歩けてしまいそうなこの世界は、何時もよりゆったりした時間が流れる。
「急がなきゃ、始まっちゃうよ」
子供の声がする。
「そんなに急いだら、転んじゃうよ」
大人の声があとから着いてきた。
そうか。
今日は。
あの時私もこんな気持ちで居たのだろう。
優しかった温もりに包まれていた夏の日々。
レジャーシートの上に座って、首が痛くなるほど見上げたあの空。父の笑い声、私の呼吸、灯る花。
遠くで弾けたあの花火。
いつか、また、見れる日を。
遠い過去を連れてくる愛おしい花は、弾けて、空に溶けて行った。
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