Lunacy artists

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 俺はフードを深くかぶりなおして夜道を進んだ。結構速足で歩いてるはずなのに、女の人の足音がどんどん近づいてくる。このままじゃあ追いつかれると思って、頭上の月をじっと睨みつけた。爪が伸び、耳の形が変化し、体中に毛が生え始める。施術(・・)を受けていても、満月を見つめれば一時的に体の形を変えられるんだ。狼の姿になると俺の身体能力は飛躍的に上がって、大抵の塀はジャンプで超えられるくらいになる。こうなったらもうどんな人間も俺には追いつけない。  はずなのに。 「それっ!」  女の人は風のように背後に迫ると、俺を飛び越えて目の前に着地した。フードの隙間から三つ編みにした白い髪がスルリと流れ落ちる。  なんだろう? この人は、なんかやばい! 変な絡み方をされるくらいなら、こっちから……! 「グルルアアアアッッ!!」 「ほう! やはりそち、フリークスの類であったか!」  フードの下から赤い目を覗かせながら、女の人が嬉しそうに言う。並みの人間なら、狼の顔で脅せば絶叫して逃げ出すのに……! もう一度、今度は全力で鼻にしわを寄せて唸ってみせる。すると女の人は持ってたスプレーを俺の顔に吹きかけた。 「ぐああああ!! いってぇ……目に入った!」 「くっひひひひ! 安心せい、少年! そちにぶっかけたのはただの水じゃ」 「み、水?」  毛の生えた腕で顔を拭うと確かに水だった。女の人が興味深そうに俺に顔を寄せ、フードを脱がせる。 「あっ……! 見ないで!」 「ふむ、狼人間とな。この時代にまだ変化(へんげ)の力を有した者がおるとは驚きじゃ」 「先祖返りだから……。っていうか、なんで狼人間のことをそんなにすんなり受け入れてるんですか? ハロウィンってわけでもないのに」 「くっひ! 紛い物か本物かくらい、余には気配でわかるわ」 「気配? え……?」 「フリークスに会うのは初めてかえ? であれば、そちには特別に余の美貌を拝ませてやろうぞ」  女の人がフードを取ると、肩まで伸びた白髪から尖った耳が突き出ていた。人間じゃない……! 女の人は血みたいに赤い唇で舌なめずりすると、牙をむき出しにしてシュッと音を立てた。俺の犬歯よりもずっと細く鋭い牙。肌も気味が悪いほど白い。俺は地面に尻餅をついたまま後ずさった。 「ま、まさか、吸血鬼!?」 「いかにも! 二千年前の全盛期から生きておる正真正銘の吸血鬼じゃ」 「二千歳以上……おばさんってレベルじゃなかった……」 「失敬な。余らを人間の尺度で図ろうとするでないわ!」  古めかしい喋り方に似合わず、見た目は二十代半ばくらいの絶世の美女って感じだ。俺が言うのもなんだけど、不老不死って本当にあったのか。すげぇ。
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