Lunacy artists

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「少年よ、芸術に必要なのは何かわかるか?」 「えっと……画力ですか?」 「まぁ画力も思い通りに描くためには必要じゃがの。答えは衝動じゃ。何かを表現したい、何かを訴えたい、何かをぶち壊したい、何かを満たしたい……なんでも良いが、強烈な感情がなければ芸術というのは命を持ち得ぬ」 「命を、持つ……?」 「胸に秘めたる心を動かすもの、それが命じゃ。作品にも命を吹き込むと言うじゃろ。余の衝動は激烈ぞ。命を生む程度、造作もない」  吸血鬼はスプレーを振り、今度は茨の絡まる古城を描き始めた。 「こうして衝動を絵に乗せておるとな、すぅと胸がすくのじゃ。最初は自己表現に走る多感な青少年の真似事じゃったが、何百年と続ければ腕も上がるものでの、いつしか芸術家として仰がれるようになった。今では余が心のまま落書きするだけで、何千何万もの人間どもが騒ぎ立てる。何たる愉快、何たる快楽。余はその昔、それはそれはよく人を喰う吸血鬼じゃった。より多くの血を飲むことこそ、余を高みへ君臨せしめる唯一の術と思い、百の眷属を召し抱えておった。しかし、今の余がなせることと比べれば、何と浅ましい快楽だったことか。全ては余が吸血鬼だったが故の衝動のお陰よ」 「衝動のお陰……。フリークスだからこその……」  古城を描き終えたところで、吸血鬼が俺にスプレーを差し出した。まさか、俺に描いてみろって言うのか? クイーンの隣で!? 「む、無理ですよ。俺みたいな素人なんかに……」 「しかしそちには衝動がある。違うか?」 「フリークスって言ったって、満月の夜以外は普通の十五歳の子供なんですよ。大体、美術の成績も最悪の俺に絵なんて……」 「満月の夜以外は普通の子供かもしれぬ。しかし今は満月の夜じゃ」  言いながら、吸血鬼は俺の手にスプレーを握らせた。 「これはな、昔馴染みの魔女に作ってもらった魔法道具の一種じゃ。振れば望んだ色を作り出すことが出来る。なんでも良い、描いてみよ。衝動に身を任せることを忘れずにな」  無理だと思うけど、どうやら俺を逃がしてくれるつもりはないらしい。こうなったらやるしかない。
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