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「いいんですか? もしかしたら何年もあなたのお世話になってしまうかも」
「そちが大人になるまでの数年など、余にとっては瞬きと変わらぬわ」
「それもそっか……。ならお願いします。また一緒に絵を描いてください!」
「よくぞ言った! 安心したぞ。もしそちが一夜限りの戯れにすると言い出したら、余はそちの記憶を封じねばならんかったからな」
「記憶を封じる? え? どうやって?」
「何故余が何世紀も正体を知られずにおれたと思っておる? 余ら吸血鬼が催眠術に長けておることを忘れたかえ?」
そういえば、そんな話も聞いたような。あれって本当だったのか。
空がゆっくりと白み始める。吸血鬼はああと怠そうな声を出して額に手をやった。
「朝が来る……なんと憎き光か。少年、刻限じゃ。次の月夜にまた会おうぞ」
「あ、はい……。というか日光が駄目なんて大変ですね。日中はやっぱり棺に?」
「日光が駄目というのは誰かがでっち上げた嘘じゃ。棺にはもう入らん。人間のベッドの方が快適だからの」
そこは伝説とは違うのか……。
吸血鬼は日光から逃げるようにして走っていった。朝日が俺達の描いた絵を照らし始める。明るいところで見ると、俺が作った血生臭い赤は意外といい色をしていた。
「胸がすっとする、か……」
指先で俺の描いた赤に触れる。次の月夜が来るのが待ち遠しい。こんな気持ちは初めてだ。
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