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満月になると
その日が満月だったのはたまたまだろう。新月と満月の夜にお産が増えるとよく言うけれど、一つの説に過ぎない。
午後二十三時半
「あなたたち帰る家はあるんですか?」
私はきっと彼女たちからウザがられているだろう。その視線や空気を感じながら、彼女たちの身を案じるのは私が教員だからだ。
「望っち他校の生徒まで声かけんなよ!!マジ、説教教師いるんだね」
「もし、帰る家がないなら・・・」
もう一人の彼女のほうに視線を向けていく。膨らんだお腹を大きめなカーディガンで隠している。
「え、ひよりのこと心配してんの?先生が面倒見てくれるの?」
ひよりさんの顔色が悪いことに、反抗する彼女は気づいていない。
「私はあなたたちのことも赤ちゃんのことも心配です。もう、私みたいな思いをさせたくないのです」
私の思いがウザがられるのは承知の上。ひよりさんの顔色なんて見ていない彼女は、私のほうに向けて両手を伸ばしてくる。
ドン!!
二つの音が重なる一つは彼女が私を押した軽い音もう一つは、ひよりさんが倒れた音。
「ひより、ひより!!」
こんな風に身を案じている友人がいるだけで心強いけれど、彼女はパニックに陥っていて、どうすればいいのかわからず名前を呼び続けている。
私はスマホの画面に緊急通知を表示させ、肩にスマホを挟み通話をしたまま、パニクっている彼女に向けていい放つ。
「あたたかいタオルか服でもいいからください!!ひよりさん、大丈夫ですか?」
その場にいた同い年の女の子たちは離れていく。あんな風にはなりたくないと。
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