2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
弁当にミミズ、教科書の破損、机の落書き、トイレの便器に頭を沈める、悪い噂、物を盗む、
机に花瓶、いじめの定番は色々やった。
御堂筋碇、彼女の生意気な挑戦的な目、多勢に無勢で反撃もできずに服の下に痣を増やすその状況が楽しい。
普段の生活も仲間との遊びも物足りない、彼女をイジメている時、それが一番世界を感じられる。
内田哀は今日も彼女をイジメる、御堂筋碇のその目にゾクゾクと興奮するのを感じて御堂筋碇の存在に感謝する、味気ない灰色の日々に真っ赤な薔薇を咲かせて摘み取る様な感覚になんて幸せなんだと感激する
でもまだ足りない、挑戦的な目だけでは苦しそうな声だけではまだ足りない、この飢えを癒せるのならば御堂筋碇にどんな非道な事だってできてしまう。
そう!ただ自分の飢えを癒やす為に・・・・
学校帰り学内カーストのトップにいる内田哀には珍しく一人で家に帰る、仲間はカラオケに行っている、もちろん一緒に行こうと誘われた。けど今日は行く気にはなれなかった。
いつも通りトイレに入る御堂筋を追いかけて、出てきた彼女を突き飛ばしトイレの汚いゴミ箱の中身をぶち撒けてやって今日もあの挑戦的な目を見ようと思っていたのに・・・・
御堂筋碇は何も興味ない顔をして黙ってそれを受け入れた。
水道の水をホースでかけても蹴り飛ばしてトイレから出て行くときでさえ彼女は何も見ない、いや、
内田哀を見ているのに見ていない目をしていた。
私が欲しいのはその目では無い!私が欲しいのはあの内田哀を心底憎む生意気で挑戦的な死さえ連想する目だけ!
その後何をしても御堂筋碇は自分を前の様な目で見ることはない、それに気が付いているのは自分だけ、仲間達は御堂筋碇の哀れで薄汚いみっともない様を笑っているだけ、異様な御堂筋碇とそれに恐怖する内田哀だけがその世界に取り残されている
そんな気分の悪さが尾を引いて、何をしても楽しくない内田哀は仲間との遊びを断って帰路につく、帰り際に見た本をいくつも積み重ねて店先に出す古本屋、普段はそんなところ見ないのだけど、色の無い世界に悲しんで周りを見ていれば、目に入る本
少し古ぼけて売れそうにもないタイトル、イジメが題材らしい、なんとなしに手にとって買ってしまった。家に帰りながらなぜこんなダサい本を手に取ったのかと思いながらも大事に持って家に入り、部屋でその本を見つめる。
何かの賞を取ったわけでもないだろうその本、至って普通な教室の絵の表紙にひねりのないイジメというタイトル、まぁ、御堂筋碇をイジメるアイディアでも詰まっていればと本を開く
最初はつまらないイジメのテンプレートを読みながらいじめられっ子の弱さを哀れむ話、けれどその様子はだんだん変わってくる、
イジメられ子がイジメッ子を怨みカッターを持ったのだ、そしてイジメに加担した者、イジメを見過ごしていた者達を傷つけていく・・・そして最後にイジメっ子の主犯を掴み無残に殺した。
その結末に
内田哀は
興奮した。
イジメられっ子に御堂筋碇を重ね、イジメっ子の主犯に自分を重ね、無残に傷付けられるその様を想像して、何とも言えぬ昂揚感と多幸感に内田哀は気がつく
あぁそうか
私は
御堂筋碇に
仕返しされたいんだ
気付けばそれが最上の幸せだと知り、すべての物足りなさの答えを得る。
あぁこれだ!これなのだ!!私は御堂筋にズタズタにされたいんだ!!
幸せの答えを得て内田哀は歓喜に沸いた。
そうと知ればやる事は彼女にその行動を起こすヒントを与える事、その行動をどうしようかとワクワク考えながら内田哀は、眠りについたのだった。
次の日落書き対策か、机を片付けられないようにかなんなのか御堂筋碇はいつも通り朝早く席についている、それを知っている内田哀、人が少なくまだ仲間も来ていない時間に御堂筋碇の席に近付いて行く、周りの生徒はこんな朝からと思いながらも内田哀の蛮行を止める事はできず今日もきっとイジメられるであろう御堂筋碇を哀れむ
内田哀は御堂筋碇の机に昨日買った本を叩きつける
御堂筋碇はチラッとこちらを見て本に視線を落とす
「読め」
内田哀が一言そういえば御堂筋碇はその本を手に取る、1行目に目をかけるという前に内田哀は御堂筋碇に囁く
「あんたも私を殺しに来るの?」
その言葉だけを残して内田哀は、自分の席に戻った。その日は内田哀は、御堂筋碇をイジメなかった。御堂筋碇が本を読む事に集中できるように仲間にも今日は気分じゃないと言って手を出させないようにする。別に皆、イジメにはこだわっていない。リーダーの内田哀がそれで遊ぶから一緒に遊んていただけで、それが無から最近のドラマの話やネイルや化粧、SNSや芸能人の話で盛り上がる。
丸めたノートの破ったページで室内野球に興じたりとそれなりに楽しく過ごす、御堂筋碇を馬鹿にすることも忘れていないのだけれど、
御堂筋碇は放課後にパタンと本を閉じて机に置く
それが読み終わったという合図であると内田哀は察して御堂筋碇の腕を掴んで教室から連れ出す、付いてこようとした仲間に、「二人きりで遊ぶから来ないで」と言えば「独り占めかよー」なんて言われながら見送られる
人の来ない科学準備室に御堂筋碇を押し入れて鍵をかける
「本の感想は?」
内田哀がそういえば御堂筋碇はため息一つ
「貴方はこれが欲しいの?」
腕を掴まれていた時に持っていたのかイジメの本を指差す御堂筋碇、本が欲しいかという意味では無い、その中身だ
「どう思う?」
内田哀の言葉に御堂筋碇は飽きれたように語る
「最初私は、何故こんな目にと思っていた。けど私、気がついたの、貴方は私が睨めば睨むほど喜ぶしそれを目的に私をイジメてるんだって」
御堂筋碇はそばにあった机に本を置く
「貴方は私に殺されたいのね、恨まれたいのね、だからそうするのよね、なら私の答えは一つだけ、私は貴方を恨まないし憎まない、貴方に一つも興味はないわ」
御堂筋碇の言葉に内田哀は怒り、手を上げる、その勢いに御堂筋碇は、たたらを踏む
「なんでよ!こんなに酷いことをしているのに!!もっと酷いことをすればいいの!?なら私はあんたが死ぬまでイジメてやる!」
それに御堂筋碇は哀れむように笑う
「どんな事をしても貴方が望むものを私は捧げることをしないわ、だって私には迷惑だから」
「迷惑なら怨みなさいよ!」
「絶対しない」
「なんで、なんでなんでなんで!!」
まるで駄々っ子のように地団駄を踏んでヒステリックに頭をかく内田哀を見て御堂筋碇は一言こぼす
「そんな愛し方しかできないなんて哀れな人」
それを聞いて内田哀は駄々をこねるのを辞めて御堂筋碇を見る
「私は哀れ?」
その内田哀のなんて恍惚とした顔だろうか、それを見て御堂筋碇は目を大きくして少し考え、口元を緩める
「えぇ、とても気持ち悪くて哀れだわ」
その言葉に内田哀は更に喜ぶ
「私がイジメられて喜べば貴方はもっと哀れんでくれる?」
「ええ、それなら捧げるわ、私は楽しいもの」
御堂筋碇の言葉に内田哀は喜び、まだ御堂筋碇の腕を掴む、御堂筋碇は忘れず本を掴んで内田哀に喜んで付いて行く
内田哀は、教室に着くと大きな声で言う
「私、碇が好きみたい」
はぁ?と待っていた仲間達とまだ教室に残っていた生徒達は驚き、ほおけて数秒言葉を噛みしめる
だがそんな暇を与えぬように内田哀が嬉しそう宣言する
「私は碇に仕返しされたかったの!殺されたかったの!それに気がつけてとっても幸せ!」
何がどうしてそんな話になったのか、スクールカーストの頂点の女が散々いじめ抜いた女を好きだと?仕返しされたかった?殺されたかった?
そんなの
「気持ち悪」
誰かの言葉に一人、また一人と笑う
気持ち悪い気持ち悪いと、イジメのターゲットが今切り替わった音がした。
それに喜び内田哀は、御堂筋碇を見る
御堂筋碇は、薄く笑いながら教室に入り、帰りの準備をすると周りから「変態に好かれて可哀想ね」だとか「俺達が守ってやろうか?」とかさっきまで御堂筋碇をイジメの対象として見てた人間達が新たなイジメの人柱をイジメる理由作りをしている
御堂筋碇は、安心して置き勉をして帰る準備が終り教室を出て行く、内田哀はと言えば私も帰る!と御堂筋碇を追いかけようとすれば足を引っ掛けられ転かされ笑われる、でもそんな事気にならない♡だって御堂筋碇が内田哀を哀れんでくれるから
内田哀が揶揄いやイジメを無視して家に帰れば仲間達は掌を返し、新たな人柱を喜んだ。
次の日、内田哀が教室に着くと黒板にデカデカと内田哀を馬鹿にするような言葉がまるでこれが芸術ですと言うように落書きと共に書き連ねられている、
内田はそれを気にすることなく席につく、席に付けば元仲間たちが、からかうように周りを囲み、口汚く楽しそうに罵ってくる、そうしていればそこに御堂筋碇が登校してきて、内田哀は嬉しそうに彼女に近づこうとすれば「御堂筋さんに近づくなよ変態」と腕を掴まれて壁に投げられる、それを周りは楽しそうに見いて、今まで自分を持ち上げていた仲間の一人がリーダー面して内田哀の髪を引っ張って告げる
「もうあんたに平和は無いんだよ変態」
そんなこと言われても内田哀には関係ない
髪を離され、痛みに少し頭を擦りながら御堂筋碇の方に行く、「御堂筋さん逃げてー!」なんて昨日までバイキンのように扱っていた者たちが御堂筋碇を人間のように扱う、内田哀は御堂筋碇のそばによるとしゃがみこんで恍惚な顔で御堂筋碇に問う
「私、哀れ?」
それに御堂筋碇は愛おしそうに内田哀の頭を撫でながら言う
「最高に哀れよ」
最初のコメントを投稿しよう!