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小一時間待ってると、オレの名前、というか偽名が呼ばれたので、診察室に向かう。
診察室に入ると、そこには髪も髭も銀色のオッサンがいた。オッサンというよりもジジイの方が相応しいのだろうか。きっとこいつが医者だろう。白衣を着用し、ついでに眼鏡をかけてて、いかにもそれっぽい。
医者はオレと目が合うと、軽くお辞儀をし、「こんばんは」と挨拶した。
「さ、そこに腰かけて」
オレは医者に促されるまま、丸椅子に腰かける。
「えっと、美容整形がしたいと」
「はい」
「それで、どのようにしたいのですか?」
「今よりもイケメンに」
「今よりもイケメンって……もっと、具体的におっしゃって欲しいのですが、とりあえず、帽子とサングラスを外していただけませんか?」
「あ、はい」
仕方なくオレは帽子とサングラスを外した。
「ふ~む」
まじまじとオレの顔を見る医者。あまりにも真剣にオレの顔を見つめるものだから、オレは緊張してしまった。まさか、オレが指名手配犯だと気付いたりしないだろうな。
「今のままでも充分だと思いますが」
「でも、今よりもかっこよくなりたいんです」
「はあ……。貴方がおっしゃる『かっこいい』が、具体的にどのような感じか、いまいちわからないのですが、ここは私のセンスにまかせるということで、よろしいでしょうか?」
「はい」
「そうですか、では、これに署名していただけませんか?」
そう言って、医者はオレに一枚の紙を渡した。
麻酔の同意書だ。
オレは同意書にさっと目を通し、署名した。もちろん、先程同様、親父の名前で。
署名した同意書を医者に返すと、口元が笑ってるように見えた。気のせいだろうか。
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