57人が本棚に入れています
本棚に追加
秘密の目撃
部屋を片付けるべく、まずは窓を開けて机の上を綺麗に整頓する。
それから窓際のテーブルにリオル王子からもらった薔薇の花を飾って、本棚にある本の巻数を一巻から順番に並べ直した。
ついでにソファの向きが壁と平行になっているかまでチェックする。
あとはクッションをもっと大人らしい柄の新しいものに変えてもらって……。
あー、もう!
なんだかこの部屋、子どもっぽくないですか!?
幼い頃から使っているものをまだ使えるからとそのままにしてたため、私の部屋の内装は白い家具にカラフルなパステルカラーのリネンで揃えられていた。
それは慣れている自分にとっては落ち着くのだが、同じ年頃の男性からすると変に思うかもしれない。
どうしましょう。
なんとかして大人の、もっとレディらしい部屋に……。
考えているうちに部屋がノックされて、ドレスを取りに行っていた使用人が戻って来た。
「姫様、今日は色の濃いものがよろしいかと思ってネイビーのドレスをお持ちしましたが、いかがですか?」
「ええ、大丈夫です」
そうでした。
まずは着替えをしなければ……。
なんだか急に忙しくなりました。
使用人は手際良く私を着替えさせて、髪を結い終わったところで「あっ」と声を上げた。
「先程ちょうどリオル王子にお会いしたのでお言付けをお伝えしたところ、すぐに来るとおっしゃっていましたよ」
「え!?」
「お着替えも終わりましたし呼んで参りますね」
「あっ! えっ!」
制止するタイミングもなく、使用人は去って行った。
ええー! どうしましょう!?
もう……もう、こうなったら隠しましょう!!
私はソファにあるクッションを引っ掴んでベッドに放ると、白いベッドカバーをかけてピンクの掛け布団も水色と黄色のクッションも全て覆い隠した。
せめてもう少しなんとかできればと部屋の中をあわあわと確認していると、私の目にあるものが映る。
それは、幼い頃からずっと一緒に過ごしているかわいい熊のぬいぐるみだった。
「!!」
これはまずいですっ!
と言ってもこの抱き枕サイズのぬいぐるみをしまえそうな場所はない。
苦肉の策で別の部屋に持って行く事を思いついた私は、急いで部屋の扉を開けて近くに誰が居ないか見渡した。
って、こういう時に限って人っ子一人いません!
えーとえーと、かくなる上は……。
「ベア五郎……少しここに居てね」
戸棚の中にあるものを机の引き出しに詰め込むと、そこにベア五郎を無理やり押し込んで、蓋が閉まるか閉まらないかギリギリのところをなんとか力づくで閉めた。
……が、最後に見えた潰れたベア五郎が脳裏にこびりついてしまって、私は再び戸棚を開けた。
「ごめんね、やっぱりこんな可哀想なことできないわ……。だって本当は生きてるんだもんね!」
「……姫様?」
ベア五郎をぎゅっと抱きしめる私の背後で使用人の声がした。
人生最大級に目を見開いて後ろを振り返ると、開けっ放しにしていた扉から使用人とリオル王子がこちらを見ている。
……終わった。
「あ、えーっと、お茶をお入れしましょうね。お待ちくださいね」
何かを察した使用人が何事もなかったかのようにリオル王子をソファへ案内した。
そしてその足で放心状態の私からベア五郎を引き剥がすとそっとベッドへ置いて、私の手を引いてリオル王子の前へ座らせる。
更に廊下から給仕用のカートを持ってきてテキパキとテーブルにお茶を用意した。
一瞬の出来事である。
手際の良さに早くここから逃げたいと言う気持ちが感じられる。
「では、私はこれで失礼いたします」
ミッション完了とでも言うように使用人はそそくさと部屋を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!