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今の私は間違いなく幸せ
まんじりとしたまま朝を迎え、いつものように今朝のルーティンをこなしていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい、パパ」
まなの手前、泣き言など言っていられない。
不安を押し込め、同じく不安であろう夫を笑顔で見送った…。
今日はどうしても会社に行く気がおきず、仮病で仕事を休んだ。
何をする気にもならず、まるで根っこが伸びたようにソファから離れられない。
夫からの勧めで、昨晩からスマホの電源を切っていたものの、手持ち無沙汰のあまり、電源を入れた私の手はツブヤッキーのアイコンをタップしていた。
早速「芸能界引退」というワードが目に飛び込み、思わず目をつむる。
全てが、夢だったら良かったと何度思ったことだろうか。
何もかも諦めたような心境で、再び目を開けた途端
「えっ?何これ…」
次々と繰り広げられる呟きの嵐に、スクロールする指は止まらなかった…。
気がつくと、子どものように泣いていた。
指は止まらず、まるで久しぶりに母に抱きしめられたような暖かさに触れたようで、涙が止まらなかった。
”#スズモナ生誕祭2024をつけて、スズモナの生誕を祝いましょう”
ファンであろう人たちが毎年の誕生日にはこうしたタグと共に、アイドル時代の画像をたくさん投稿してくれるのだ。
すっかり忘れていた誕生日、まさかこの呟きで思い出すなんて。
最初は正直戸惑っていた。
いきなり表舞台から去った私にこんなことをされる資格はないと、毎年誕生日を迎える度に申し訳なさと後ろめたさがついて回り、その日はまともにSNSが見れなかったのだ。
でも今日ほど、このタグとたくさんの画像たちに勇気と希望をくれた日はない。
するとある呟きが私の目に飛び込み、思わず指が止まった。
”お誕生日おめでとうございます。これからも自分らしく歌い続けて下さいね”
呟きの主は、あのカラオケ企画を放送している人気バラエティー番組の公式アカウントだった。
(バレてたんだ…)
恥ずかしさのあまり、顔が赤くなっていくのが分かる。
この呟きに対して、色んな人がリツイートしてくれている。
”あなたがいつまでも幸せであることが私の幸せです”
”青春時代を彩ってくれてありがとう。今は思いっきり好きなことをして過ごしてほしい。おめでとう”
”あれだけアイドル貫いてきたスズモナだから、今は普通に結婚してお母さんになっていてほしいな”
”何もかも完璧で最強のアイドル”
「これでいいんだ、うん。私はこれからも普通に歌って、生きていいんだ」
次々と流れてくる呟きの画面が、涙で滲んでいった。
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