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猫目
今日の部活は皆で映画を観ることになっている。
有名な文学作品を映画にしたという、不朽の名作だ。
俺と光くんは一足先に視聴覚室に行き、上映会の準備をしていた。あと10分もすれば、他の部員も集まって来るだろう。
視聴覚室の独特な雰囲気は、何だかワクワクする。
「あの廃ビル、解体されることになったそうです」
「そりゃあね、あれだけの死者が出てるから。今まで放置だったのが不思議なくらい」
プロジェクターの角度を調整しながら、光くんが廃ビルの話題を出してきた。
その話は、教室でクラスメイトが話していたから俺も知っている。
「僕も、何回かあの廃ビルに行ったんですけど」
「そっか。気になるって言ってたもんね」
「でも、会えませんでした。姉さんの仇を討ったら、会ってくれるかなって思ったんですけど。駄目でした」
「え?」
今、光くんは何て言った?
仇を討つって、漫画とか小説でよくある、恨みを晴らすために仕返しをするってことで。
お姉さんは亡くなっていて。
廃ビルで遺体が見つかっていて。
あの少女が言っていた、「止めて」という言葉。
もしかして、俺が出会ったあの少女は光くんのお姉さんで。
彼女は、俺に光くんを止めて欲しかった?
弟の手を、汚させないために。
「先輩、廃ビルに行ったでしょう」
声をかけられて、少女のことでいっぱいになっていた頭が、現実に戻される。
その声がいつもの光くんの声と違うように聞こえて、一瞬ドキッとした。
光くんは俺の後ろにいるため、その表情は見えない。
「危ないから駄目って言ったのに」
振り向いてみると、光くんはいつも通りの穏やかな微笑みを俺に向けていた。
でも、その目が。
獲物を捉えた時の猫のような目が、俺の背筋を凍えさせる。
背中に、不快な、嫌な汗をかいている気がする。
俺は、他の部員が早く来てくれることを祈った。
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