8人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日の放課後。
今日は本を読んだり雑談したり、ゆるーい文芸部の活動日だ。今日なんて、俺を含めて3人しか部活に参加していないというゆるさだ。
俺は、昨日の話をしてみた。昨日の衝撃の出会いを誰かに話したかったのだ。ちなみに、クラスメイトには話しているが、「廃ビルにいたとかヤバい奴じゃん」という返事がきた。ロマンも何もない。高校生ともなれば、こうも現実的になってしまうのだろうか。
「え、何それ。幽霊じゃないの」
クラスメイトと同じくらいロマンのない返しだが、従姉の琴葉は俺の話に興味津々だ。琴葉の眼鏡の奥にある瞳が、好奇心で光っているように見える。
文芸部の部長でもある彼女は、オカルトが大好きで、部誌に載せる作品もそういったものを書く傾向にある。幽霊が出る、なんて聞いたらすっ飛んで行くに違いない。
「怖い事言うなよ。ただ、綺麗な子だなーって思っただけで」
俺は昨日の少女の姿を思い出していた。幻想的で、月の光に溶けてしまいそうなくらい儚くて。
「それにしても、奏は本当に女性の趣味わかりやすいわよね。黒髪で猫目の美人、好きじゃない。それで、ミステリアスな雰囲気の子。さっきも一緒にいたあの子とか」
「三条は関係ないだろ!」
突然出てきたクラスメイトの名前に、俺は慌てた。
何を隠そう、俺が文芸部に入ったのは、美人のクラスメイトとお近づきになりたいという下心が理由である。それがバレたら恥ずかしくて学校に来れなくなってしまう。
「先輩、廃ビルに何しに行ったんですか?」
俺が琴葉と騒いでいると、ふいに、光くんがぽつりと呟いた。光くんは文芸部の後輩で、年下だがしっかりしている。優等生って感じだ。頭も良いが顔も良い。完璧すぎて、後輩だけど尊敬する。
「ああ、小学生くらいの女の子がさ、猫が廃ビルの方に行っちゃったって泣いてて。危ないから俺だけで探しに行ったんだよ。猫はすぐ見つかったから良かったけど」
「先輩らしいですね」
そう言って、大きな目を細めてふっと笑う。
「あのビルは、老朽化していて危ないですよ。お飾り程度ですが立ち入り禁止の看板が出てます」
「そうよー! ずっと前に、あそこで事故が起こってるんだから。行くのはやめときなさい」
「わ、わかったよ」
先輩である従姉と、後輩の2人に止められてしまえば、俺も「また彼女に会いに廃ビルに行く」なんて言えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!