月夜に出会う

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止められはしたが、好奇心は抑えられず。 結局、その日の夜も俺は廃ビルに来ていた。 昨日、俺が廃ビルに行ったのは20時過ぎ。夕食を食べて、日課のジョギングをしていた時だ。今日もジョギングついでに寄ってしまった。 もしかしたら、廃ビルに行けば会えるかもしれない。何だかあの寂しげな少女の姿が気になるのだ。会えたら、名前だけでも聞きたい。ついでに通っている学校も教えて欲しい。彼女のことを、知りたい。 そんな期待を込めて廃ビルに向かった。さすがにビルの中には入れないので、昨日のように入口をうろつく。当たり前の話だが、誰もいなかった。 それに、今日は曇りのせいか月が全く見えず、昨日よりも辺りが暗い。 長居しても無駄だと思い、俺はすぐに諦めて家へと帰った。 次の日は雨だったのでジョギングに行かなかった。 その次の日はジョギングの途中で予備校帰りの琴葉に出会ってしまい、廃ビルへ行く機会を失った。 何だかんだとタイミングが悪く、結局あれから廃ビルには行っていない。1週間は過ぎている。 今日こそはと思い、ジョギングの帰りに廃ビルのある森へ向かう。辿り着いて、前回来た時と同じくらい辺りが暗いと感じた。この前と違って曇り空ではない。月が見えていてもおかしくない天気だが、空にはかすかに星が見えるだけ。 ああ、そうか。今日は新月の日だ。月が見えるわけがない。 これでは、この前に来た曇りの日と同じ状況だ。 そこで、俺は気づいた。 もしかして、彼女と会えるのは月が出ている日だけなのではないか、ということに。 いよいよ琴葉の「幽霊じゃないの」という言葉が真実味を帯びてくるが、俺は怖いとは思わなかった。 月夜の日だけ会える美しい少女。俺は、彼女に会いたいという気持ちがより一層募っていった。
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