廃ビルの噂

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その日の部活の帰り道。 今日の部活は簡単なミーティングだけですぐに終わったので、光くんと寄り道をして帰ることにした。 ファミレスでも行く? なんて話ながら駅前に向かう。 周りに人がいなくなったタイミングで、光くんが少しだけ声のトーンを落として話しかけてきた。 「先輩は、その、噂になっている廃ビルの少女に出会ったんですよね」 「うん。光くんも気になる?」 今日は琴葉にもその話をされた。やはり皆気になっているのだろう。俺はそこまで好きじゃないけど、ホラーとかオカルトっぽい話は話題になりやすい。 「……そうですね」 光くんは興味津々、といった様子ではなく何か考えているようだった。 「先輩、その少女はどんな様子だったんですか?」 「うーん、遠くから見ただけだから、表情とかはわからないんだけどね。すごく神秘的で、綺麗だなーって思ったよ。月が明るい夜だったから、そんな雰囲気になってただけかもしれないんだけど。遠くからでも目鼻立ちが整ってるってわかったし。目とかも大きくてさ」 話している途中で、あ、と思ったが、時すでに遅し。 様子を聞かれたのに、容姿について話してしまった。今俺が話した内容は、光くんが知りたい情報ではないだろう。 きまり悪くしている俺に、光くんは苦笑いだ。 「何だか、恋してるみたいですね」 「こ、恋!?」 思いもよらない光くんの言葉に俺は慌てた。確かに、あの女の子にまた会いたいとは思うけど。 少女のように綺麗な顔が、俺をからかうような笑顔になった。 「先輩も多情ですね。三条先輩がいるのに」 「だから、三条はそういうんじゃないんだってば! 美人だなーとは思うけど」 俺はしどろもどろだ。 「駄目ですよ」 「え?」 光くんの大きな猫目が、俺の目を見つめる。 その目は、先程のからかうような笑顔とは打って変わって、真剣そのもの。 「廃ビル。行っちゃ駄目です」 「ど、どうして?」 「……危ないから、です」 光くんの雰囲気にのまれて、それ以上は聞けなかった。 もしかして、彼はあの少女のことを知っているのではないだろうか。 「危ないから廃ビルに行くな」という至極当然の言葉だが、何か裏があるような気がする。 確証はない。ただの勘。 だけど、何となく。そんなことを思った。
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