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月が綺麗な夜。再び俺は廃ビルに向かった。
彼女に会いたいと思ったから。
噂になっているくらいだから、他にも見に来る人がいるかも、と一瞬考えたけれども、それは杞憂だった。
こんな危なくて怖い噂があるところ、来るわけないか。
廃ビルの周囲にある瓦礫を、月の光が照らしている。
初めて少女に会った時と同じ、幻想的な雰囲気の夜だ。
「あ……」
少女は、いた。
廃ビルの入り口近く。
近づいたら、この前みたいに逃げられてしまうだろうか。俺は、彼女との距離を縮めることはせず、そのまま立っていることにした。
表情が見える、ギリギリの距離。少女は、俺の姿を見つけると、悲しそうな目で俺を見つめた。今日は走り去る様子がない。
何だろう?
何か言いたいことでもあるのだろうか。
この前逃げたことが、後ろめたいとか?
暫くの間、俺は黙って少女の様子を伺っていた。
彼女の方も言葉を発するわけでもなく、ただ何かを訴えるような目で俺を見つめるだけ。
近寄っても、良いのだろうか。
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