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ゆっくりと距離を縮めてみると、少女の口が動いていることに気づいた。
「え? 何?」
止めて。
声が聞こえてきたわけではない。
彼女の口の動きが、そう言っているように見えた。
止めるって、何を?
声を聞こうと近寄ると、少女はまるで溶けるように、すぅっと消えてしまった。そこには、月の光しか残っていない。
俺はあっけにとられる。
何が起きた?
目の前で、人が消えた。
月の光に溶けるように消えた。
そんなこと、ありえるのだろうか。
普通の人間は、こんなことできない。
ということは、彼女は生きている人間ではない?
琴葉が言うように、幽霊なのだろうか。
この前は、生きていると感じられたのに。何故?
また少女に会いたい、彼女のことを知りたい。
そんな浅はかな思いは、頭の中から消え去っていた。
頭の中が混乱する。わけがわからなくて、色んな感情でぐちゃぐちゃになった頭の中をどうにかしたくて、今にも何かを叫びそうだった。
その日は、どうやって家に帰ったか覚えていない。
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