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【法律によって、イギリスでは狼が狩られた時代があった。一匹だけ生け捕りにされた狼は軍隊で生きた殺人兵器として使用され、戦場で恐れられた。なお、その狼は一人の軍人の命令しか聞かなかったという。その軍人の名はジェラルド・アルダートン――】
その噂が生まれてから、もう二十年近く経つ。まあ、その軍人が俺の親父で、その狼が俺の父さんってことは今では誰も知らない事実なんだが……。
イギリスで最後に残された狼が、実は金髪灰眼の人間になって暮らしてるなんて誰も考えはしないだろう。
俺が物心ついたときに聞いた話だと、俺の母親はどっかから連れて来られた狼に似た大型犬で今は行方が分かってないらしい。
それで、俺には狼と犬の血しか流れてないんだが、なぜか人間に変化出来る。
その原理は父さん自身も分からないそうだが、俺や父さんみたいに科学じゃ証明出来ない未知の生き物も、ただ公にしていないだけで世間には他にもたくさん居るだろう。
で、親父のほうなんだが……
「ジェラルド、今夜、僕の相手してくれます?」
「っ、どこ触ってんだ……。チャールズ、あんた、まだ俺に勃つのか?」
「それはもちろん。まだまだ余裕ですよ」
はぁ……、キッチンから聞こえてくる会話に溜息が出る。
五十手前でお盛んなこって。まだ朝だぞ?
「息子の門出の日にそういう会話するか、普通」
空気なんて全然読んでやらずに俺はキッチンに乱入した。
俺、まだ居るぞ、って感じなんだが? という顔を向けると親父は気まずそうな顔で視線を逸らし、父さんは親父から離れることなくこっちを見て「ジョンももう大人なんですから、いいじゃないですか」とニコッと笑った。
「よかねぇわ。俺はぜってぇ男同士なんて認めねぇ。ったく……」
二人を横目に一杯だけ水を飲んで、俺は大きなバックパックを背負った。
そう、今日は俺がこの家を出ていく日だ。
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