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眠れない夜だった。
なんとなくの習慣として二十二時を回った頃に布団に潜ったが、どうにも意識が沈んでいかない。
しばらくじっと目を瞑っていたが、いよいよ眠れず僕はベッドから上体を起こした。いつもどうやって眠ってたっけ。
「……歩くか」
ずっと転がっているだけじゃ眠れる気がしない。
気分転換に散歩でも行こう。今日は金曜日だ。明日学校は休みだし夜更かししても問題ない。
別の部屋で寝ている父親を起こさないよう玄関の扉をそっと開ける。少し寒い。羽織るものを用意したほうがよかったかもしれない。
外はとても静かだった。みんな眠っているのだろう。
この町で僕だけが夢の世界に連れて行ってもらえなかったようだ。
「でも、綺麗だな」
家を出て少し行ったところにある海沿いの遊歩道をあてもなく歩きながら僕は夜空に呟いた。
空に星は無く、ただ歪な形をした月がひとつ浮かんでいるだけ。寄せる波の音と潮風の匂いは月夜によく似合っている。
しばらく遊歩道を進むと、大きな橋があった。
この橋は隣町に繋がっていて、昼間は交通量の多い場所だ。
さすがにこの時間は車一台走っていないが、それでも律儀に歩道を辿っていく。
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