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そのお店は渋谷センター街の中ほどにあった。
ありふれた雑居ビルの前で、私は人の流れを避けながら瑠璃乃っちに声をかける。
「何でいつものサロンじゃないの?」
瑠璃乃っちはそのアニメのような顔を近づけると声を落とした。
「……ここ裏サロなんだ」
「裏サロ!」
思わず大きな声を上げてしまってから私は口元を押さえた。
「裏サロぐらいみんなやってるよ」
「そーだけど……」
裏サロン。
表向きはメイクやネイル等をする普通のサロンとして営業しているけれど、裏メニューで非合法の処置もしてくれる店だ。
非合法とはいえ、暗黙の了解というか、よっぽどの規程違反でない限り管理センターも大目に見てくれるので、高校生でも結構やっているらしい、っていうのは私でも知っている。
「でも、高いんじゃない?」
「その為にバイトしたんだもん。際どいとこまで攻めるよー」
「えっ? そのアニメ顔、個性強すぎて飽きたんじゃなかったの?」
私は思わず、不自然なぐらい大きい瑠璃乃っちの瞳を覗き込んだ。
奥行きを感じられない真っ黒な瞳の中には、白い星マークが浮かんでいて、その周りは瞬きをしたらバサバサと音がするんじゃないかってぐらい長い睫毛が覆っている。
「だってまた2週間したら点検日でしょ? せっかくお金かけるんだから、やりたいようにやらなきゃ」
「まーそうだけど……」
そう、私達は1か月に一度、体全体を覆う被膜スーツの点検と調整、体のクリーニングの為に管理センターを訪れなければならない。
全ての人間は生まれてすぐ被膜スーツに入れられる。
スーツに覆われていれば、人種も性別も体格も身体的特徴も一切関係なく全員公平だ。その後の人生は、全部本人の努力とほんのちょっとの運だけで決まる。
お腹のところにスーツ内の環境を制御するICチップが埋め込まれていて、知識や情報の読み込みはチップを経由して行われるから、基本的学力もみんな同じ。
また個人的に努力した分はポイントとして加算され、様々な人生の選択時に有利に働くようになっている。
努力は必ず報われるのだ。
そして点検でスーツを脱ぐ際、好きなデザインに変えてくれることになっている。
とはいえどんなデザインでもいい訳ではない。基本は人型で年齢に合ったもの。そして倫理的に問題のないデザイン。スポーツ等で有利にならないよう身長の上限も決まっている。
けれど人間の欲望には限りがない。
規定外のデザインで個性を出したい人。若見せしたい人。その他、瑠璃乃っちのように次の調整まで待てない人達が裏サロンに訪れるようになったのだ。
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