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「お待たせー」
可愛らしい声で登場してきた生物に、私は思わず息を呑んだ。
肌の色は全身緑色。背中には何やら大きな丸い物を背負っている。肌の色と同じ緑の短い髪の上に載っている物は水の入った白い皿。
これはどう見たって……。
「カッパ!」
「どお?」
個体識別センサーは、その緑色の生物が自分の友人であると伝えている。
「これならギリセーフでしょ?」
確かに、規定では「人型であること(2020年代に流行したコスプレ程度までは可)」となっている。
でも……。
「ギリアウトじゃない? だってお皿に水入ってるよ」
「そこ? これは気分を盛り上げる為だよ。お皿の水が乾いたって弱ったりしないんだから」
瑠璃乃っちはその後、ショッピング中も、小腹が空いたと言って立ち寄ったマッチャノーリのお店でも、ずっとご機嫌だった。
でもまた2週間もしたら飽きちゃうんだろうな……。
全身緑の生物が緑色の細長いスイーツにかぶりついている姿って、何だかシュールだ。
私は小さな紙袋に入れられたお菓子に視線を落とす。
でも、本当はこれはただの完全栄養食らしい。
被膜スーツを着用したままでは完全栄養食と栄養ドリンクぐらいしか摂取できない。
そこで管理センターは幻を見せることにしたのだ。
スーツの眼球部分にあるセンサーが、完全栄養食の表面に表示されたコードを読み取ると、味、香り、食感から喉ごしまで、まるで本物のように感じることができるのだ。
普段食べている物は、ハンバーグでもカレーでも全て同じ完全栄養食だ。違うのはコードだけ。
つまり私達は常にスーツに騙されている。
私は大きな口を開けてマッチャノーリにかぶりついた。
ガリリと心地よい音と共にマッチャの香りが鼻に抜けていく。
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