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1時間目の授業は『公平学』だ。
学習ポイントを稼げる他の基礎科目とは違って、ポイント加算のない総合科目の授業は正直ダルい。
他の子もみんな似たようなもので、頬杖をつきながら窓の外を眺めていたり、机に突っ伏して寝ている人さえいる。
「今から約100年前に開発された被膜スーツによって私達の生活は大きく変わりました……」
田中先生はダレている生徒達を気にすることなく話を続ける。
「人体に害をなすものだけ遮断し、必要な空気や水分を通す、柔らかくて弾力のある合成皮膚。ICチップから直接データを受信することができる脳コネクタ。スーツ内を常に快適に保つセンサーと、スムーズな活動を維持する為の動力源。それらの開発は私達の生活に革命をもたらしました」
田中先生は教室をぐるりと見回してみせた。
もしかしたら、田中先生の眼球センサーにはダレている生徒達は認識されていないのかもしれない。
見えているのは瞳をキラキラと輝かせながら教師の話に耳を傾ける幻の生徒達の姿。
先生は小さく頷くと更に続ける。
「でも、被膜スーツの素晴らしいところはそこではありません。性別や人種、体格、身体的特徴等、それらを全て均一に揃えるという発想。それこそが21世紀の大発明なのです! こうして人類は本当の公平を作り出したのです!」
先生はそう言って満足そうに両手を広げてみせた。
被膜スーツが開発される前は、人種差別や性差別、セクハラ、性犯罪等、人々の間では様々な問題が生じていたと近代史の授業で習った。
そして差別や考え方の違いが戦争にまで発展したと……。
平和な今となっては想像もつかないことだけど、それはとても怖ろしいことのように思えた。
現在は人が破壊衝動をもつとスーツ内のセンサーが感知し、素早くセロトニンを放出させるようになっている。
そのお陰で今は争いや犯罪が激減したらしい。
けれど0ではないのだ……。
被膜スーツを着た生徒達はみんな同じで公平な筈なのに、学校では時々イジメも発生している。
先生達はそれを認めようとしないけど……。
もしかしたら私のスーツが認識しないだけで、世の中にもまだ凶悪な犯罪や争い事があるのかもしれない……。
人の心の奥底に巣食う悪はそう簡単にはなくなったりはしない。
平和ボケでのほほんと過ごしている私達の知らないところで、それは私達を飲み込もうと虎視眈々と狙っているのだ。
……とか、ホラー動画の見過ぎか。
私がそんな馬鹿なことを考えていると、いつの間にか田中先生は森本の正面に立っていた。
期待のこもった眼差しを森本に向ける。
「では『元々持って生まれた容姿や能力、性別によってその後の収入に差が出たり、待遇に違いがあっありするのは不公平だ』という考えの基に制定された法律は何と言う?」
「『人類総公平法』です」
「では、施行年月日は?」
「2050年12月3日です」
スラスラとそう答える森本に先生はニコリと微笑んでみせた。
総合科目でノートをとっているのなんて森本ぐらいだから、森本は毎回当てられてしまっているのだ。
基礎科目では『指先を動かすと脳の発達にいい』という考えの基、手書きでノートに書き込むというアナログ作業が義務付けられている。
そうしないと学習ポイントがもらえないので、生徒達は仕方なく機械的にノートをとっているのだ。
森本は本当に変わってる……。
そんなことを思いながらも、私の口元はつい緩んでしまう。
森本はいつだって純粋で真っ直ぐだ。
私には、その茶色い瞳が好奇心でキラキラと輝いているところが見えるような気がしていた……。
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