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「では、『人類総公平法』制定のきっかけとなったとされる事象は? ……琴澤」
「えっ!」
森本の背中を横目で眺めていた私は、どうやら真剣に先生の話を聞いていると勘違いされたらしい。
でも、高二で受ける近代史のデータはすでに受信済みだ。
「『AI失業』です。『2040年代、AIの発達によって人々は仕事を奪われ、失業率は過去最大にまで上昇した。富裕層と貧困層の格差は増大。不満が高まった圧倒的多数である中間層と貧困層が蜂起し、のちに人類総公平法が制定された』です」
私は読み込まれたデータをそのまま読み上げる。
「そうですね」
先生は目を細めて頷いてから、各自好きなことをしている生徒達に向き直る。
「学期末には各自レポートを提出してもらいます。基準を満たさないものは再提出もありますからね。もちろん自動生成チェックも入りますよ」
先生の言葉に、突如周りから「えー!」という声が上がる。
総合科目にレポート提出があるなんて聞いてない!
もちろん高校で取得しなければならないとされている学習ポイントには関係しないから、レポートを提出しなくても卒業はできるだろう。
でも、医師や教師等、資格取得の為、高校卒業後に専科学校へ進学するつもりの人達にはショックが大きいかもしれない。
専科学校の進学に高校の成績評価表が必要なのだ。
まあ、私は専科学校に進学するつもりなんかないからどうでもいいけど……。
どうせ『人類総公平法』により、全ての人に行き渡るよう仕事が用意されているのだ。
必要以上に勉強したって仕方ない。
今もAIは労働力の大半を担っているけれど、『人類総公平法』によりその数は一定数に調整されているらしい。
残った仕事を作業効率の悪い人間達に振り分ける為に。
それでも仕事に就けない人の為に、AIの作業を監督する人を監視する仕事、更にはその人を監視する仕事等々、本来は不必要な仕事が日々作り出され、それらの人にあてがわれている。
だから今の失業率は0%らしい。
私は動揺の色など全く感じられない森本の広い背中に目をやった。
森本はレポート提出なんてチョロいもんなんだろうな。
森本は何の資格を取ろうとしているんだろう……。
人々の命を救う医師。
最先端の被膜スーツを作る開発者。
私は白衣の裾を翻して颯爽と働く森本の姿を想像する。
彼ならきっとどんな仕事でも手を抜くことなく真面目に取り組むんだろうな……。
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