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そんな会話を交わしている警察幹部達に、龍進は微かに笑みを浮かべて言った。
「ただし、代わりと言ってはなんですが、一つ私からお願いがございます。本件の陸軍本部での警備業務は我々、軍部にお任せ頂けないでしょうか」
「な……!」
「いえ、皆様が困るようなことにはなりません。ただ、稟議書を修正する際に、あわせて次のように書いて頂ければ結構です。――警備計画の見直しによって、人員を再配置した結果、より万全な体制を敷くためには、陸軍本部内の警備については、軍部の協力を仰ぐのが適切だと判断した、と」
相原警部が口を開閉させて何かを言おうとしたものの、最後は発条の切れた人形のようにかくんと首を落とし、弱々しい声で言った。
「……それしかあるまいな」
周囲から悲痛な叫び声があがる。
「早速、修正稟議をあげなければ。皆、署に戻るぞ」
「はっ……!」
先ほどまでとは打って変わって意気消沈した相原警部が立ち上がると、唇をかみしめつつ、水原中佐を、それから龍進を順番に見て、ゆっくりと頭を下げた。
「水原中佐、如月少佐。諸々、ご配慮、恐れ入ります」
そう言って背を向けて退出しようとした彼らを、
「あー、ちょっとお待ちくださいな」
小野少佐がおどけた口調で呼び止める。
「なにか……?」
「ついでといっちゃあなんですが、例の四谷で予定されているガサ入れの件、うちにお任せいただけませんかねぇ?」
「そ、それは警察の管轄事項だ……!」
「ですが、相手はテロ組織ですし、大切な部下をお守りいただくためにも、そういう任務は装備が充実したうちにお任せいただいた方がいいんじゃないかと思いまして。それに、これだけ人が殺されているのに、あなたがたはなにも出来ていないじゃないですか」
「い、言わせておけば!」
色をなした警官の一人が詰め寄ろうとしたのに対し、小野少佐が人差し指で眼鏡を押し上げて言った。
「なんなら、本日の会議は、実はあったことにしてもいいんですよ?」
警官達は息をのむ。
相原警部は顔を紅潮させていたが、ややあって大きなため息とともに吐き捨てるように言った。
「わかった。要求をのもう!」
肩を怒らせながら部屋から出て行く警部の後ろを、部下達が慌てて追いかける。
扉が閉められ、室内の空気が弛緩したのを期に、龍進を除いた面々が安堵の表情を浮かべる。
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