ストーカー

1/1
前へ
/1ページ
次へ

ストーカー

それはある満月の夜のことだった。 仕事の残業で夜遅くなり、暗い夜道を歩いていた。 閑静な住宅街に私のハイヒールの音だけが響いている。 カツーン、カツーン。 カツーン...カツーン ハイヒールの音が少しずれている。 立ち止まってみる。 すると立ち止まって音がしないはずなのに、ハイヒールの音が響く。 後ろを振り返ってみる。 誰もいない。 気のせい? そう思い再び歩き始める。 カツーン、カツーン カツーン...カツーン 気のせいじゃない誰かが後ろからついてきている。 でも誰もいなかった。 もしかして幽霊?女性の? 私は走った。 ハイヒールが、カ、カ、カ、と小刻みに響く。 そして向こうも小刻みなハイヒールの音を響かせながら、走ってきた。 息が絶え絶えになってきたところで、腕を掴まれた。 思わず振り返る。 そこに目に映り込んだのは...私だった。 確かに私の顔だった。 だが似ているのは顔だけだった。 顔以外は影のように黒く見た感じ滑っとした印象だった。 それより印象的だったのは、人間の口ではあり得ない長さで裂けるように三日月の形をした笑みだった。 私は心臓が跳ね上がってが、これ以上その不気味な笑みを見たくない思いで腕を振り払い、その場を逃げた。 その後。私は実家の自室で窓とカーテンを閉め切り、光が一切入ってこないように引きこもっている。 光があるとあいつが出現しような気がしてならない。 あの満月の日のように。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加