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手酷く酔っ払った日の帰り道。
涼しさを増した秋の夜風に当たりながら、ふらふらとした足取りで最寄駅からの家路を辿る。途中のコンビニで買った缶酎杯をグビリと一口あおった時、見上げた視線の先に見事な満月が輝いていた。
その瞬間、なんでだろう。
遥か昔、学生時代に別れてしまった彼女の事を、唐突に思い出した。
僕は、しばらく、そのままの体勢で月を眺めた。だけど、傾けていた缶を元に戻し、口の中の液体をごくりと飲み下すと、
「ちっ」
舌打ちを一つついて、缶を持つ腕をだらりと下に降ろした。
ずっと忘れていたのに、何で思い出させるんだよ。
僕は煌々と輝く月を睨んだ。しかし、月はそんな僕の敵意など意に介さず、澄み切った白い光を放ち続ける。
「ふうっ」
ため息と共に月から視線を逸らすと、うな垂れそうになる顔を上げて、僕は足を一歩前に踏み出した。
「また怒ってる」
その時、懐かしい彼女の声が僕の耳を捉えた。
え?
驚いて声がした方を見ると、学生の時と変わらぬ姿の彼女が、公園のブランコに腰掛けて僕を見ていた。
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