満月の夜にさよならを

4

　僕はむっとした顔をしていたのだろうか。

「ほら、また怒ってる」

　と言って伊織は苦笑いをした。

「また？」

　僕が聞き返すと、

「そう。いつもこんな顔してた」

　と言って、伊織は口をへの字に曲げ、可愛らしい童顔の眉間に皺を寄せた。

　今思い返せば、伊織といる時の僕は、彼女の気持ちが僕には向けられていないような気がして、いつも不安だった。だから、大好きな人と一緒にいるというのに、いつも気分が塞いでしまって、それが伊織には不機嫌なように見えていたのかもしれない。

「怒ってなんかいないよ。ただ、考えていたんだ。伊織は僕のこと本当は好きじゃないんじゃないかって」

　付き合っている時には言えなかったことが、今は素直に言えた。

「伊織は、僕のこと本当に好きだった？」

　告白したのは僕の方で、受け入れて貰えるとは思っていなかったから、伊織が、うん、と頷いてくれたことが信じられなかった。

「どうかな？もう、忘れちゃったよ」

　あっけらかんと伊織は言い放つ。

「だけど、オッケーしたということは、つまり、そういうことだったんだよ」

　何だかはぐらかされているような気もしたけど、しかし、今なら分かるような気もする。何とも思っていなかった人に告白された側の気持ちは、所詮そんなものなのだと。