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『さあ、我が家の一番の場所へようこそ!』
高志がドアを開けてくれて、私達は次々に屋上に入った。
『うわぁ。…これはほんと素敵だね。』
『すげぇな。確かに最高の場所だよ。』
私は感嘆し過ぎて、思うように言葉が出なかった。
直哉も同じだったと思う。
『だろー!一番お金かけてこだわったからなー、由香。』
『もうね、家ってここだけあればいいんじゃない?っていうくらいよ。』
案内された屋上は半分ガラス張りの屋根がかかっている。
まわりにあまり家は無いが、胸の高さの塀があることで周囲が気にならず落ち着く。
まるでここだけが空に浮かんで、世界に自分達しかいないみたいに。
四隅に照明が置かれ、夕暮れの空間に上品な光を灯している。
床は大理石のような白いタイルが敷き詰められ、真ん中部分がウッドデッキになっていてコタツとストーブが置かれていた。
そして塀の近くにはそれぞれ三脚にセットされた天体望遠鏡と望遠レンズがついたカメラ。
みんなで高志のお料理やお酒をウッドデッキに運び入れ、コタツにもぐりこんだ。
2022年11月8日。
もうすぐ442年ぶり天体ショー、皆既月食と天王星食が始まる。
天上に昇りつつある満月がこちらを優しく見守っている。
『皆既月食が始まるのが18時09分。
ちょっと早いけど乾杯するか。』
高志がそう言って、由香がグラスを並べてくれた。
5つ、ある。
寒いけど、やはり最初はビールになった。
『では、天体観測部4期生、乾杯!
優も乾杯!』
『乾杯!』
みんなでグラスを掲げて乾杯する。
そしてテーブルに置かれたままの優のグラスにもみんな自分のグラスを合わせた。
久しぶりにみんなで優の名前を口にした。
ビールに口をつけながら、今までのことが足早に蘇る。
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