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穏やかな微笑みを浮かべて佇む月は、実は意外と早い速度で昇り、そして欠けていく。
欠けている月は、光が当たらないところが見えなくなるだけ。
月はいつでも丸いまま空にいる。
直哉みたいだと思う。
曖昧な距離のままの11年はあっという間に過ぎた。
そしていつでも隣もいるのに、私には見えない陰の部分がある。
同じ大学に進めることが決まった後、告白したが『今は考えられない。』と拒絶された。
拒絶されたら離れるしかない。
だけど距離を取った私にまた近づいてきたのは直哉からだった。
一度振られた私は確かめる勇気もないまま、ここまできた。
由香と高志も寄ってきて、ワイワイしながら観測は続く。
由香は一眼レフで写真を撮っている。
『今日の為に買ったんだよ~!
そしてちょっと練習した。』
『え、すごい!』
撮った写真を液晶で確認すると、600ミリのレンズでも綺麗に撮れている。
『きっと後からネットで綺麗な写真が出てくるだろうけど、自分の手で時間を切り取りたいんだよね。』
カメラ、いいなぁ。
あの頃も頭上に広がる輝きを記憶以外にも残したいと思ったものだ。
自分の手で時間を止められたらどんなにか…。
『雪乃もカメラやろうよ!
写真旅行とか行こうよ!』
『うん!カメラ買う!
今度買いに行くの付き合ってね。』
望遠鏡の為に貯めていたお小遣いをカメラに使うのもいいな。
来年、直哉が転勤したらきっと暇になる。
新しいことをはじめるにはいい機会かもしれない。
直哉の転勤ですべてが終わるんだろうな。
時間は刻々と過ぎて、19時16分、月は全部が陰に隠れ赤銅色になった。
『皆既月食って、全く月が見えなくなるわけじゃないんだな。』
『ねー!私は空が真っ暗になって、月のまわりにフレアが発生して…もっとおどろおどろしい夜になるのかと思った。』
『それは皆既日食だなー!』
みんなでひとしきり笑って、コタツに戻った。
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