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『ここからしばらくはあの赤銅色のままだな。
19時59分が最大の月食。』
『20時42分に皆既月食が終わって戻り始める。
その1分前に惑星食がはじまるんだ。』
直哉と高志が携帯で調べながら確認してくれだ。
『じゃあ次は19時57分くらいからの最大の皆既月食と、20時30分くらいから惑星食を見る準備をすればいっか。』
由香がそういうと、高志が日本酒とワインを開けた。
『明日休みもらってきただろ?
せっかく持ってきてくれたし、両方飲もうぜ。』
また、グラスは5つ。
日本酒をついでグラスを合わせる。
『優と酒飲みたかったな。
また菅原先生とも。』
高志が言って、直哉が頷く。
『菅原先生さ、由香たちの結婚式でベロベロに酔っちゃって、ワーワー泣いてたよね。』
『酔うのも泣くのも、相変わらず全力だったね。』
私と由香は笑いあった。
『私達、先生の部活生活の最後の生徒だもんね。』
『先生自体をやめなくてよかったよ…。』
『今日はどこで観測してんだろうね…。』
『学校じゃないかなぁ。
夏休みに合宿として学校に泊まったことあったよね?
あの時、学校の屋上が一番好きだなぁって言ってたぜ。』
しばらくみんなで先生を思う。
当時30歳だった先生は頼りがいがあって溌剌としていて、私達は大好きだった。
由香がかけた19時57分のアラームが鳴った。
あと2分で最大の皆既月食。
私と由香は望遠鏡を覗きに行ったが、あとの2人はコタツに入ったままだった。
夜風はさらに冷たくなり、空気は透明度を増す。
赤銅色の月は胸の奥に眠る情熱みたいに静かに輝く。
寒いねーって由香と寄りそって眺めていたら、ちょっと大きめの声がしてきた。
『菅原先生には部活続けて欲しかったよ。
優だって閉じて欲しいなんて思ってなかったはずだ。』
振り向いてみると高志が遠くを見据えている。
目が赤くなって潤んでいる。
だいぶ日本酒を飲んだのかな。
『それに』
真っ赤になった目で直哉の方を向き、続けた。
『直哉と雪乃のこともそうだよ。
優はこんなの、望んでるわけない。』
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