偶然

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偶然

 それは本当に偶然だった。部屋に戻る途中の廊下で、長岡美音とすれ違った。  「長岡……?」  思わず声を掛けたのとほぼ同時に  「美山先生?」  と声を掛けられた。  聞けば長岡美音は、母親がこの病院に入院しており、定期的に見舞いに来るのだと。  この病院は学校から離れているから教え子や父兄たちとも遭遇しないだろうと、少しはヒヤヒヤしながらも、心のどこかで安堵していたから驚いた。  念のため精神科に入院していることは内緒にしてもらうように伝えておいたら、長岡は素直に頷いた。そもそも長岡は人を陥れるタイプではなく、友達は少ないが真面目な良い子だ。成績だって良い。  最も接点といえば担当の授業で教える時くらいだったが。
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