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再会は突然に
「俺、幸汰が好きなんだ」
…… へっ!?
そう告白されたのは、高校三年生、卒業まであと一ヶ月を切る頃だった。
明日から卒業式まで自由登校となる。
「放課後、裏庭に来れる? 」
突然僕の席の前に立ち、そう訊いてきたのは目黒司紗、学校一の人気者で三年生になってからは、随分と彼と会話をするようには、なっていた。
何か、悪いことしたかな…… 僕。
席に着いたまま、チラリチラリと視線だけを司紗に投げた。
「来れたら…… いや、絶対に来て」
真剣な形相に断ることなんてできなくて、こくっと小さく頷いた。
何か文句でも言われるのかな、裏庭に行ったら、他にも誰かいっぱいいて、いじめとか…… いや、司紗はそんな人じゃないもんな…… 。
あれこれと想像が膨らみ、怖くもなったけど、行かないという選択はできない気がして、帰りのHRの内容は全く頭に入らなかった。
「あ、幸汰、悪いな」
「…… う、ううん…… えっと、なにかな? 」
周りを見回してみると、誰もいなくて内心とてもホッとした。
皆んなに取り囲まれて何か言われるんじゃないかって、怖かったんだ。
でもそう、司紗はそんな人じゃない、疑ったりして申し訳なかった。
そして好きだと告白された。
司紗が僕を好き?
ちょ、ちょっと待って…… 頭が混乱して整理ができない。
というか、好きってどういう意味だろう、友達として? だったらこんな場所に呼ばないよな…… えっと…… あまりの動揺に、挙動不審になってしまう僕。
それよりなにより、僕は入学した時からずっと、司紗のことが好きだった。
同級生として、ではなく恋愛対象として。
その司紗に「好き」だと言われて、こんなに嬉しいことなんかないはずなのに、学校一の人気者、勉強もスポーツも一番で、誰からも好かれて、こんなにカッコ良くて、いつも皆んなの真ん中にいる司紗の存在があまりにも大き過ぎて、そんな司紗が僕なんかと…… 。
「…… あの…… 僕………… ご、めんな、さい…… 」
怖かったんだ。
司紗と恋をするのが。
「…… そっか…… 男が男を好きって、気持ち悪い? 」
引き攣った笑顔で頭を掻きながら、司紗が僕に訊く。
頭をぶんぶんと思い切り振って、
「そ、そんなこと、ないっ!」
それだけはっきりと言えた。
だって、僕だって男の人が好きなんだ。
「明日から自由登校じゃん、もう幸汰に会えなくなるかもって思って…… 思い切って告白したんだ。ごめんな、気を悪くしないでくれよ」
振られたのに、どこまでもスマートな司紗に胸がズキッと痛んだ。
僕だって好きだ、でもこんな素敵な司紗に僕なんか釣り合わないもの。
付き合ったって僕はきっと、嫌われてしまうことを、飽きられてしまうことを、ずっと恐れてしまうだろうことは目に見えていた、だから…… いいんだ、これで。
「じゃ、さんきゅうな、卒業式まで会えないかもだけど、元気でな」
手を上げ、背中を見せて去って行こうとする司紗の姿は、呆れるほどに爽やかだった。
振られたのに…… こんなに爽やかに去ろうとするなんて、残された僕の方が振られたみたいになっている。
これでいいんだ、いいんだよ、僕なんか司紗と釣り合うはずなどない。
…… そして、この話しには続きがある。
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「知念さん、早く進んでくださいよ」
社員食堂でメインのおかずを何にするか悩んでいると、後ろの女性社員に苛立った声で言われる。
「あ、ごめん、先にどうぞ」
いつも悩んでしまう。
決めてから列に並べばいいのに、後ろから人が来ると流れで並んでしまうんだ、気をつけないと。
入社三年目、暑かった夏もようやく終わり食欲が増す秋になっても、僕には何も変わらない食欲。
「幸汰っ!幸汰だろう!? 」
女性社員に列を譲り、また最後尾に並ぼうとした時に僕を呼ぶ声に振り向く。
会社で『幸汰』と呼ぶ人なんかいないから、(へっ?)となった。
………… 司紗。
目の前に現れたのは、満面の笑みをした司紗だった。
それに今気付いたのだが、社員食堂の人たちのユニフォームが変わっている。以前は白衣に耳まで隠れたクリーンキャップだったのに、ダークベージュのお洒落なノーカラーシャツに黒の腰エプロン、他のスタッフは胸当ての黒エプロンだけど司紗は腰まで。それに黒のハンチング帽、なんてお洒落なんだ。
って、今はそんなことを思っている時じゃない。
どうして司紗がこんなところに、そんな格好で…… ?
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