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狐は毎日男を見ているうちにもう一度、あの男に触って欲しいと思うようになりました。遠くで見ているだけではなくてそばに居たいと思うようになりました。
狐は知りませんでしたがそれは恋でした。
しかし、狐が近づけば捕まって、他の狐と同じように毛を剥いで肉は捌かれ売られてしまうでしょう。
だから今宵、あの術を成すことにしたのです。
その術は遥か昔にやはり人間に恋をした狐が編み出したものでした。
満月の夜。その月明かりを浴びながらくるりと三回宙返りをして人間に化ける。
その姿で意中の相手に口づけをして貰えたら一生その姿を得られる、と言うものです。
しかしその術にはいくつか制限がありました。
陽の光を浴びると狐の姿に戻ってしまうのです。
だから夜しか男に会うことはできません。
そして食べ物を一切口にすることができなくなるのです。
それが命を失う理由でした。
もしかしたら口づけして貰えず先に飢えて死んでしまうかもしれないのです。
さらにこの術について男に話せません。これも重要なことでした。話してしまえばその場で狐の姿に戻ってしまうのです。
雌狐は、人間が決まった相手にしか口づけをしないことは聞いたことがありましたが、それでも大丈夫だと踏んでいました。
男はいつも一人で相手がいる様子もありませんでしたから自分が行けば喜ぶだろうとすら思っていました。
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