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二、
狐は明るい気持ちで月を見上げると、すうっと大きく息を吸って、三回宙返りをしました。
白い光に包まれた狐は人間の娘に化けました。
慣れない二本足に少し戸惑いながら、それでもはやる気持ちで男の家へと長い山道を急ぎました。
男の家は月の光に照らされて、中からは明かりがこぼれていました。
娘の姿の狐は戸の前まで来ると、胸に手を当て上がった息を整えると戸板をトントンと叩きました。
「…誰だ?」
あの男の声がしました。
それを聞いただけで狐は嬉しくて小さくぴょんぴょんと跳ねました。
しかし困りました。なんと答えれば良いのでしょう。
「あの、道に迷ったので休ませて欲しいのです。」
咄嗟にそう答えると中から男の動く音がして戸がガラリと開きました。
久しぶりに男を近くで見ることができた狐は自分の顔が綻ぶのを抑えられませんでした。
若い女が道に迷ったというのに嬉しそうにしているので男は怪訝な顔をしました。それでも
「何もないが休むだけなら」
そう言って娘の姿をした狐を家に入れてくれました。
男は囲炉裏の灯りで菅笠を編んでいました。
娘は囲炉裏の反対側に座ってそれを微笑んで見ていました。
しかし、男は笠を編みながら考えていました。
夜遅く、こんな山奥に若い娘が一人で現れるのは妙だ。
コイツは人に化けた狐に違いない。
ならば、何が目的なのか。何を企んでいるのだろう。何かしようとすればすぐに捕まえてやる。
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