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娘の姿になった狐は、黙々と笠を編む男の顔をただ見つめて喜んでいましたが、そのうちに目的を思い出しました。口づけをして貰わなくてはなりません。
しかし人間の男はどうすれば口づけをしてくれるのでしょう。それは狐の知らないことでした。
何か合図でもあるのかしら。
村へ降りてこっそり人間を観察した時も口づけをしている人はありませんでした。
きっと外ではしないのだろう。今は家の中にいるからいいはずだ。
そう考えてもやはりどうして口づけするのかわからないままでした。
狐が色々に思いを巡らす間も男は黙々と笠を編んでいました。
その様子にそんなに面白いものなのかと、狐もやってみたくなりました。何より男のすることは何でも知りたかったのです。
「あの、私にもやらせてください。」
狐の娘が言うと、男は少し考えてから、菅の束をどさりと投げて渡しました。
狐の娘はそれを手に取って男のやるのを夢中で真似しました。
男は笠を編み視線は手元を見たままその様子を伺っていました。
そうして、ふと、狐なのに笠など編めるのかなと考えて顔を上げました。
見るとその娘の手元の菅は何かわからないほどめちゃくちゃに編み込まれていて、それでも嬉しそうに管を編む姿に思わず吹き出しそうになりました。
変な奴だな。何がそんなに嬉しいんだ。
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