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男はこのまま放っておこうとも思いましたが、それでは菅が勿体無いので立ち上がって娘の横に座り笠の編み方を教えてやりました。
狐は教わりながら男の顔を間近に見て観察しました。
人間の口というのはこんなに平たいんだ。
歯も平らでこれでは鼠も殺せやしないだろうな。
でもこれで口づけをするはずだ。この男の口を私の口にくっつけてくれればいいのだ。
男は視線を感じて狐の娘の方を見ると、嬉しそうにじっとこちらを見つめていました。
何を考えてやがる。
男は不気味に感じて少し距離を詰めすぎたと思いました。
すると娘が言いました。
「口づけをしてくださいませんか。」
「はぁ?」
男は思わず素っ頓狂な声を上げて立ち上がりました。
「一度でいいのです。私に口づけしてください。」
よく見れば愛らしい顔をしていると思いましたが、その唐突で人間らしくない言動はやはり狐なのだと確信させました。
わかったぞ。こいつ俺がその気になって口づけした途端に狐の姿に戻って俺を笑う気だな。
男はそれならこちらも騙してやれと思いました。
「だが、笠が編めていないではないか。笠が編めない女子とは口づけは出来ない。そんなことも知らないのか。」
狐の娘は困りました。悲しそうな顔をしてしばらく考えてから言いました。
「では、もう一度教えてください。」
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