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これは妙な事になったな。
男は思いました。
騙されてなるものかと警戒しながらも丁寧に、笠の編み方を教えてやりました。
狐の娘は一晩かけてなんとか一つ、笠を編み終えました。それはとても売り物にはならない出来でしたが、娘はその笠を満足気に見て微笑みました。
その顔を男は何故か愛しく思いました。
しかし、娘が「では口づけしてください。」というのを聞いて我に返り、首を横に振りました。
「いや、一つではない。」
男が言うと、娘はとても悲しそうな顔をしました。それを見て男は心が痛みました。
「一体いくつ編んだら良いのです?」
娘に聞かれて男は慌てて「十だ。」と答えました。
狐の娘は外が白んできたのを見て、今夜はとても無理だと思いました。
「では、また明日にします。」
そう言うとふらふらと男の家を出て行きました。
男はその姿を見送りながら、「道に迷ったと言う話はどこへいったんだ」と思い出し笑いました。
そして狐が笠を編むのに付き合って自分もまた寝ていないことに気づき大きな欠伸をしたのでした。
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