三、

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三、

娘はとぼとぼ歩きながら巣穴に着くと朝日を浴びてすっかり狐の姿に戻っていました。 巣穴に入ると安心したのと同時にひどくお腹が空きました。 一晩寝ずに必死になって笠を編んで疲れてもいました。 食べられないと言われているけど。 そう思いながら、巣穴を出て大好物の鼠を捕まえて食べようとしました。でも酷い味に感じられてすぐに吐き出してしまいました。 仕方なく、巣穴に戻ると丸くなって寝る事にしました。 そうして昨晩見た男の顔や嗅いだ匂いを思い出しながら眠りにつきました。 昼になり、男は眠い目を擦りながら笠や野菜を売りに村へ降りました。 男の作る質の良い笠は瞬く間に売れて最後一つ、狐が作った不恰好な笠が残りました。 それを見た客が「半値でそれも貰おうか」と言いましたが男は「いや、これは売り物ではないから。」とその笠を引っ込めました。 その不格好な笠を見ながら男は娘のことを思い出していました。 あいつ、また明日と言っていたな。ということは今夜も来るつもりかな。 それなら笠が売れた金で魚でも買って帰って食わせてやろうかな。 と、そんな事を思うなんて自分はすでに狐の術中に嵌っているんじゃないかと思いおかしくて笑いました。
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