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娘はその夜も必死になって笠を編みました。
男もその横で縄を綯って過ごしました。
男はふと「お前がもし狐か何かなら木の葉を笠に変えたりできるのだろうな。」と言いました。
すると娘は驚いたように顔を上げ「それでも良いのですか。」と聞きました。
「良いわけがなかろう。それにお前は狐ではないだろう。」
男が言うのを聞いて娘はがっかりしました。
「そうです。私は人間でございますから。」
そしてまた口を尖らせて笠を編み始めました。
その様子は可愛らしくて男は笑いそうになるのを堪えました。
しかし男はいよいよわからなくなりました。
こいつは本当に俺を騙そうとしているのか。
それともこういうところもこいつの騙しの一つなのか。
そうして男に答えの出ないまま、夜明けが近づき、その夜娘は、どうにか二つの笠を編むことができました。
「昨日のと合わせて三つです。」
そう言って躊躇いながら男の顔を見て言いました。
「やっぱり十無いといけませんか。」
その表情に、男は「もう騙されてやろうかな」と思いながらも「いや駄目だ」と思い直し
「当然だ。あと七つ足りないからな。」
と言いました。
娘は大きな溜息をつきました。
「口づけがこんなにも難しいとは思いませんでした。」
そう言って、また山奥の方へと帰っていきました。
その後ろ姿はふらふらと覚束なくて男を心配させました。
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