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俺はガックリと肩を落とした。
琴音が言ったのはたぶんつい先週の、十二月頭にあったクリスマスライブのことだ。チヤホヤされて軽音部に入り、調子に乗った俺が迎えた二回目のステージ。
前回同様緊張こそしていたが、自信もあった。初ライブ以降歌の練習を重ねて素人から少しは垢抜けたはず。きっと前回以上に観客を沸かせられると。
『なんか前と違くね?』
『なんだろ。同じ声のはずなのに、心に響かないよな』
『バズってたから期待してたのに』
しかし客席から聞こえてきたのはそんな落胆の声だった。明らかに前回より盛り上がりに欠け、曲間のたび静まり返った会場に溜息がこぼれた。
理由は想像がついた。原因は不明だが、おそらく俺の声から1/fゆらぎが消えたのだ。失敗ばかりの俺がようやく出会えた才能は、わずか二回目のライブにしてその輝きを失った。
1/fゆらぎのない俺の歌などただの素人もどきだ。
だから拗ねている、と言われればそれも否定できない。
「確かに前回と違う感じはしたけど、あれはあれで良かったと思うけどな」
慰めるような琴音の言葉に顔が熱くなる。
気を遣われている。恥ずかしい。せっかく初めてカッコいいところを見せられたのに、今度は一番情けない姿を見せてしまった。
あんな惨めなところ、琴音にだけは見られたくなかった。なのにまさか観客として来ていたなんて。
「……うっせ。部には気が向いたら顔出すから、ほっとけよ」
「まぁいいけどさ。好きなことはやれるうちにやらないと後悔するよ」
琴音は見損なったという表情で吐き捨て、立ち上がってドアの方へと向かった。
俺はドアが閉まるのを見届けた後、もう一度大の字に寝転がり薄曇りの冬空を睨みつけた。
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