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「こんなところにいたのかよ。響」
再び屋上ドアの方から声がして、見ると、今度はバンドのギター担当・絃本陸が立っていた。あちこち探し回ったのだろう、ゼエゼエと息を切らし、目が隠れるほど長い前髪をかき上げる姿に少しばかりの罪悪感を覚える。
「ったく。スカウトした俺の顔に泥を塗らないでくれよ」
「お前がスカウトしたのは、こんなつまらない声のやつじゃないだろ」
申し訳ないと思うのに、出てきたのは子供じみた憎まれ口だった。本当にこんな自分が嫌になる。
「別に声だけでスカウトしたわけじゃないんだけどな……」
「は? 何だって?」
「何でもない。いいから、さっさと部室来い。合わせ練やるぞ」
これ以上迷惑をかけては軽音部で居場所を失くしてしまうかもしれない。それはちょっと、嫌だ。
この期に及んでまだバンドへの未練を断ち切れない自分に呆れながら、俺は一拍置き、部室へ向かう陸の背中を追った。
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